monologue : Same Old Story.

Same Old Story

行きずりの一夜

「……間違いない。あの日、あの場所だ」

この風景に見覚えがある。忘れようとしたって忘れられない。どうしてこんなことになったのか、僕には想像もつかないけれど。

「超能力? 意志の力が何かをねじ曲げて……みたいな。いや、とにかく」

理由は、仕組みは何だっていい。例えばこれが夢だっていい、そう思いながら僕は自分の頬をつねった。当たり前の、痛み。文字通り何度も繰り返しうなされた、夢とは違う、今回は。

「もうすぐ、確かもうすぐだ」

間もなく彼女が向こうの曲がり角を抜けて、僕の視界に入ってくるはずだ。

彼女は、僕が何となしに抱き続けていた姿にそっくりだった。仕草も、言葉遣いも、笑顔も。僕が若い頃から抱き続けてきた、こんな女性がいたらいいという、理想の幻像。一目見た瞬間に間違いなくそれとわかった。まるで、ある日僕の頭の中から、街の一角へ抜け出したみたいに。

「もうすぐ……」

あまりにそのままの姿だったことに面食らいながらも、何とか僕は声をかけた。しどろもどろになりながら、どうにか……本当にどうやったのか、彼女と一晩を過ごした。命がけのエネルギーで口説き落としたようなものだ。僕は、理想の一夜を突然に過ごした。

「……もうすぐ……」

しかしその後がいけなかった。目覚めたときに僕は独り、彼女はいなかった。あまりに浮かれて連絡先も聞かなかった。エネルギーを使い果たして、僕は呆然としたままだった。

その後は、いくら探しても彼女に巡り会うことはなかった。シンデレラの魔法が解けて灰被りに戻るみたいに、理想の女性はどこかへ消えてしまった。それからの数年、僕はまさしく抜け殻だった。

「意志の力が、時間とか時空とかいうやつをねじ曲げて、か」

悔やんでも悔やんでも足りない日々を過ごしていた。今日もいつも通り独り寝床へついた……はずが、いつの間にか、あの日のあの場所へ来ていた。まるで一番戻りたい瞬間にタイムスリップしたように、失敗を取り戻すチャンスを与えられたかのように、僕は寸分違わず、ここに立っていた。

「絶対に、取り戻してみせる」

今度は、どんな手を使っても彼女を引き留める。失敗は繰り返さない。

「……来た!」

彼女が現れた。僕は静かに歩み寄り、声をかける。

「……あの」
「ああ、びっくりした。今度はこっちからなのね」
「……?」

彼女は僕を見るなり、ため息をひとつ吐いた。

「盛り上がってるところ悪いんだけど、私はあなたと一緒には行けないわ」
「……え?」
「あなた、二回目でしょ? 私は三回目なの。二回目のその後ったら酷かったわよ、あなた酒に溺れて」
「……何を言って」
「嫌な未来から戻ってこれたのはあなただけじゃないってこと。私にも、あなたのいない自分の人生をやり直す権利があるし、それに……あなたは私の理想からは程遠いわ」

踵を返し、歩み去って行く彼女。僕は再び呆然と立ち尽くし、また今の失敗をどうにか取り消せないかと、ただそのことだけを考えていた。

Fin.

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