monologue : Same Old Story.

Same Old Story

「お前に話しておくことがある」
「何だよ、改まって」

父はいつもより神妙な面持ちで、ため息を吐き出してから、ゆっくりと話し出した。

「お前には二十年間、私とお前以外に家族はいないと言っていたな」
「僕を産むときに母さんが死んで、って……まさか、安いドラマみたいなこと言うんじゃないだろうね」
「……実は、お前には兄がいる」

読みかけていた本を閉じて、今度は僕がため息をつく。

「どういう事情があって隠してたのか、今になって話したのか知らないけどさ」

どう表せばいいのか、あやふやな感情が渦巻く。喜ぶべきか、憤慨するべきか。

「……その、兄……は、今どこで何やってるんだよ」
「ある複合企業の、重要な役職にいる」
「へえ、僕と大して違わない歳なのに?」
「歳は、お前と同じなんだよ」

ってことは双子か、と、また真意の不明なため息が湧いて出る。

「それでも大したもんだよ、その、兄……は」
「何も実力でのし上がったわけじゃないんだ。それ相応のコネクションがあったからチャンスがあり、機会さえあればお前にだって」
「ちょっと待って」

父の話を制止して、頭の中を隅々まで整理する。

「……コネクションって普通、親兄弟とか親戚とか、よっぽど近い人でなきゃ世話しないと思うんだけど。双子の兄が会社役員で、弟には存在を隠してる、って、まるで……僕が隠し子みたいに聞こえるんだけど」

父は何も言わなかった。沈黙の間から、僕は自分の推測がなかなかいいセンいってることを悟って、また複雑な気分になった。今度は明らかに、少しネガティブな方向へ。

「……何も、お前を軽く扱いたかったわけじゃ」
「いいよわかるよ、大人の事情だろ。今になって言い出したことにも理由があるんだろうから、この際洗いざらい話しなよ」

半ば投げやりの僕に遠慮せず、父は、ある種予測通りの話を始めた。

「もうひとつ、お前に言わずにいた家族のことがあってな。私の家系は代々、長男にある遺伝的な難病が発症するようになっている。私の兄もそれで若くして死んだし、爺さんの代にもそういうことが起こった」
「……それで」
「お前の兄にも今、同じことが起こっている」

死に際に弟へ知らせてどうするつもりか計りかねるものの、父が冗談を言える人間でないことを知っている僕は、続きを催促した。

「それで、今どこにいるのさ。会いに行くんだろ」
「……いや、そうじゃない。今行っても、弟のお前のことを受け入れられるかどうかわからん」
「じゃ何だって言うんだよ」
「お前に、お前の兄の代わりになって欲しいんだ」

もう僕は、これからどんなことが起こっても大概驚かないだろう。

「何を言い出すかと思えば。無理に決まってるだろそんなこと」
「やってみなけりゃわからないじゃないか」
「無理に決まってる。いくら双子だって育った環境が違うんだ、僕と兄とじゃ色々と噛み合わないところがあるよ」
「そのための準備は色々と整えてきたんだ。二十年間もな」
「……二十年?」

最初よりもずっと神妙な面持ちで、父が語り始める。

「最後の秘密だ。お前は、お前の兄が産まれる前……受精卵の段階から分割された。人工的な双子というわけだ。それは、私の祖父や私の兄から得た教訓で、長男として産まれた男児が若死にして、家系が途絶えるのを防ぐためだった。案の定お前の兄は発症した。そこで、お前が役に立つ……身代わりになるといっても、兄の代わりに役職に付けというわけじゃない。お前の体を、兄に与えてやって欲しいんだ」
「……何、言ってんだよ」
「無理かどうか、なんて問題ではない。やらなければならんのだ。もう二十年間も費やしてしまった、失敗などしてなるものか」

けれど同じ遺伝子だったら、僕の体でもまた発症するじゃないか。そう言いかけて僕は、父の、狂気の混じったような表情を見て悟った。

「僕の他にも、順番を待たされてる身代わりがいるのか?」
「……お前が知ることじゃない」

父に何か毒でも盛られたのか、その後のことはゆっくりと暗転する映画のようだった。僕は、どこかにどれくらいかいるかも知れない弟たちのことを考えて、僕のようにならなかった場合に彼らは幸せに暮らせるのだろうかと、そんなことを思った。

Fin.

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