monologue : Same Old Story.

Same Old Story

些細な闘争

僕らの些細な言い争いを、店の中にいた他の客が、見ないように気遣いながら見る。静かな喫茶店に闘争は似合わない。

「だから、それはきっと姉だと思うの。私はその日、そっち方面には行ってないから」
「君にお姉さんがいるなんて初めて聞いたな」
「たまたま今まで話す機会がなかっただけのことよ」

彼女がコーヒーカップを口元へ運ぶしぐささえ、なんだか嘘くさいことのように思える。先週末に繁華街で彼女らしい人物を見かけたことなど、見知らぬ男と歩いていたことなど、忘れてしまえば良かったのかも知れない。

「そう。誰かと歩いてたのは君のお姉さんなんだね」
「そうよ、私じゃないんだから、姉しかいないわ」

これ以上、どんな追及を重ねても彼女は振り切ろうとするだろう。僕はとっさに、どこかで読んだような、頭を掠めた一節を口にする。

「……君の癖」
「……?」
「緊張して力が入るから、嘘をつくときに小指が立たない」

僕が彼女の右手を指す前に、彼女は素早く自分の右手の、小指を確認していた。

「……そんなの嘘よ、私、そんな癖ないもの」
「そう、嘘。でも重要なのはそこじゃない」

僕がじっと見つめると、彼女は諦めたように、週末に友人らと遊び歩いたことを告白した。しかしそれ以上はやましいことをしていない、と熱弁する姿は、どうやら本音らしかった。

「ごめんなさい」
「わかったよ、もうこれ以上は何も言わない。隠しごとをしないでいたいだけだから」
「……そうね」

僕もコーヒーカップを口元へ運ぶ。全力でさりげないしぐさを心掛けながら。

「実は僕も、機会がなくて言わなかったことがあるんだ」
「兄弟がいるってこと?」
「まあ、その。これを見て欲しい」

財布の中から、名刺大の一枚の写真を取り出す。写っているのは僕ともう一人、僕と同じ顔の男。

「……そんな、ちょっと」
「そう、双子。一卵性のね。見分けがつかないだろ」

気持ちを落ち着けようと、カップに手を伸ばす彼女。ふいに意地悪がしたくなって、彼女に顔を近付けて囁く。

「実は今まで何度かデートのときに入れ替わってた、って言ったら信じる?」

再びぎょっとした表情で僕を見る。静かな喫茶店に些細な闘争の、結末の平手打ちの音が響く。

Fin.

Information

Copyright © 2001-2014 Isomura, All rights reserved.