monologue : Same Old Story.

Same Old Story

交換条件

「なあ、頼むよ。俺が困ったときには、っていう約束だったろ」
「そりゃそうだけど、お前。もう十年も前の話だし、それに」

話の規模が違いすぎる、と僕は言わなかった。彼の真剣な目を見ていると、そんなことを告げたところで説き伏せられそうにない、というよりも、どんな説得も無駄のような気さえしてきた。黙って走り出すのが一番の得策かも知れない。

「なあ、頼むって。俺とお前の仲だろ」
「そりゃ、お前」

どうにも返答に困ってしまう。無下に扱えない理由も、確かにあるのだ。突然呼び出された真夜中の公園にでもすぐさま駆けつけるような、そんな理由が。

「思い出せよ、俺がお前を助けたこと」
「わかってるよ」
「大学二年の夏の課題だろ、論文の発表、就職のアドバイス、口利き……挙げたら切りがないけど、俺はお前と知り合って二十年近く、力になれることは何でもやってきた」
「わかってる」
「だから、恩返しだと思って」
「でも」

確かに、彼にはずっと助けられてきた。些細なことから結構大きなことまで、確かに彼は、全力で僕のことを助けてくれていたように思える。

「俺が困ったら助けてくれる、そう言ったじゃないか」
「でも」
「でも、何だよ」

話の規模が違いすぎる。

「僕もお前の助けにはなりたいけど、ちょっと今回のは荷が重過ぎる。金融業者から逃げるための盾になる、なんて、ほとんど命懸けじゃないか」
「命懸けで戦え、っていうんじゃないんだ、ほんの三十……二十分でいい、時間が稼げたらそれでいい。どんな方法だっていいんだ、ほんの……」
「無理だよ」

すがるように見る彼の視線を避けるように目を逸らす。時間稼ぎだなんて、その道のプロ相手に、体を張らずにどうやってやれっていうんだ。

「悪い、また何かあったら呼んでくれよ」
「おい、待てよ。おい!」

そのまま彼を見ず、振り向いて歩き出す。走り出す手前の速度で足早に公園を後にする……が、どうしても彼を見捨てたような気がして、こっそりと公園の中に戻り、茂みの後ろから彼の様子を伺う。

(……いつ、その相手と向かい合わなきゃいけないんだろうか)

彼はしばらく考え込んだり、時計を気にしてあたりをうろうろしていた。が、しばらくして彼のすぐ傍へ別の男が現れ、彼に声をかけた。

(あの男だろうか?)

彼は僕をすぐにでも差し出すつもりだったのか、そう思うと背筋が縮む思いがした。義務のような感覚に駆られて、彼らのやり取りを覗き見る。しばらくは静かに話し合っていた様子だったが、僕の友人が時間稼ぎを必要とするような状況……つまり返す金を持ち合わせていないようだということがわかると、男は途端に豹変し、彼に対して手を挙げた。

(やっぱり、こうなるんだ)

彼は何度も腹を殴られ、体をくの字に曲げる。もし彼の頼みを承諾していたら、僕がああいう仕打ちを受けていたのだろう。

(可哀想に)

可哀想ではあるけれど、自業自得なのだ。他でもない金を借りて返せないのは彼自身で、僕が身代わりになる必要はない。静かに立ち去ろうとしたそのとき、地面に倒れ込んだ彼と目が合った。

「えっ」

暗がりでもはっきりとわかったその顔は、間違いなく僕のものだった。どういうことだと口にしようとしたそのとき、喉の奥とそのもっと奥の方に、重い金属を流し込まれたような鈍い痛みが充満した。僕は、体をくの字に曲げて地面に崩れ落ちていた。悲鳴もあげられないような痛みの中、さっきまで僕がいたはずの茂みの向こうに、誰かがいることだけはわかった。

「ふざけやがって、この野郎」

それが彼かどうか確認できないまま、この状況がどういうことなのか理解できないまま、男の次の蹴りが飛んできて、僕は意識を失う。

Fin.

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