monologue : Same Old Story.

Same Old Story

空想思想

「つまりですね、僕が何を言おうとしているか、というのは」

並べに並べた自説をまとめようと切り出す僕に、テレビカメラが向けられる。スポットライトが鋭さを増し、僕の表情のどこにも影をつくるまいとする。

「現行政府のもとで建設する新たな国家というのは、つまり」
「現政府打倒、あるいは対抗政党打倒に向かうと」
「いや、決してそういうわけでは」
「理屈としてはどうあれ、結果としてはそう向かうわけでしょう」

司会役が無下に僕の言葉を遮り、どうにも極端な結末へ近道を作る。

「いや、僕が言うのは」

どうにも違和感の続く数時間だった。たかが一日数千人規模の来訪者があるウェブサイトの運営者、そこでいろいろな自論を展開する僕を、いち論客として番組内に招きたい、だなんて。僕は、数時間前からこのスタジオのセットに座り、テレビカメラの前で延々と議題に対して問題提起をし続ける役を負わされた。

「その、政治体制とか政党云々でなくて」
「現実に則した話とすればそういうことでしょう」
「いや、まずは現実的なことでなく」
「夢物語に終始しないで欲しいね」

どうにも奇妙な話だ。僕以外にもこのように招かれた客はあるのだろうか。司会役と数人のコメンテーター、対、僕、の構図。彼らはなぜか、延々僕を非難し続ける。

「君の言うことはどうにも、絵空事のようだね」

初老の男が言う。壮年の女も続く。

「そんな理想論ばっかりじゃ生活できっこないわよ」
「そりゃ、僕が言うのは生活に関する知識でも知恵でも……」
「じゃ何だ、哲学か思想に限局したことなのかい」

司会役の男が、僕へ注いでいた視線を手元に落とす。

「危険思想だな。君はどうやら、革命的な夢想論者であるらしい。粛正か矯正が必要だね」

司会役の男が、指をぱちんと鳴らす。途端にスタジオ内の照明が全て落とされ、辺りは真っ暗になる。テレビカメラの作動を示す赤いランプも消え、スタジオセットは何やら孤立した薄暗い空間になってしまった。

「……なんだよ、これ」
「君は最初に、空想力について話をしたね。現代の若者に空想力が欠如しているという」
「……若者に限らない、あんたらみたいな年寄りもそうだ」
「それは非常に危険なことだ。空想から不衛生な妄想を生み出し、現状に抱いた些細な不満を全て誰かのせいにして、打倒体制なんてことを夢見る。君のように不特定多数にその自論をばらまく輩はなお危険だ。粛正か矯正が必要だ」
「……てことは、最初からそういうことが目的で僕をおびき出したのか?」
「数時間の収録ではっきりとわかった。君は、我々にとって有害な存在なのだ」

僕は、ごくりと生唾を飲んだ。

「我々、ってのは誰のことだよ」
「君のよく知る存在だ。君とは違う方法で打倒体制も権力奪取も謀る……」

そこまで告げて、司会役の男は黙り込んだ。暗闇に目が慣れ、僕の表情を読み取れたのだろう。

「なんだ、その苦笑いは」
「思惑が当たっちゃったときの、さ。どうせこんなお誘いだろうと思って、いろいろ面倒な根回しもしたよ。どこかに設備があるんなら、今すぐインターネットにアクセスして、僕のウェブサイトを開いてみるといい」

暗闇に慣れた僕の目に、男の青ざめた顔が映る。

「大々的な文句を載せといたから、多分訪問者は普段の二三倍だろう。もしかしたら連鎖的に十倍近くになってるかも知れない。皆興奮すると思うよ、某悪の組織に拉致されたウェブサイト管理人、処刑現場をリアルタイム中継、なんてね」
「……貴様」
「今からセットに仕掛けられたウェブカメラを探し出すかい。もう遅いね。どう転んでも後の祭り、僕が以後ウェブサイトを更新できないならなおさら大きな事件になる」
「…………」
「言ったろう、空想力の欠如だ。窮鼠猫を噛むんだぜ」

空想する。インターネット上のあちこちの掲示板に、僕の顛末と台詞が書き連ねられる場面を。僕がそれを見られるかどうか、果たしてわかったことではないけれど。

Fin.

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