monologue : Same Old Story.

Same Old Story

連続殺人鬼

「まったく、どうにも困ったことだ。まさか自分がつけ狙われるなんてね」

二人掛けの小さな木造りの椅子と机、その上には小さな白磁のカップに真っ黒なコーヒーが注がれている。男はぼそぼそとつぶやきながら、そのコーヒーの中へ真っ白なミルクを流し込んだ。うねるミルクが徐々に色を得ていく。

「どういうことだろうね、事実は小説より奇なりというが。自分が命を狙われることになるなんて、思いもよらなかった。しかも一度きりのことじゃなくて、もうかれこれ、半年も続いて四回目だか五回目だか」

コーヒーとミルクの境目を狙うようにスプーンが差し込まれ、ぐるぐるとかき混ぜられる。喫茶店の中には、他に十数名程度の客が、それぞれに何か話し込んでいる。誰も男のことを気に留める様子はない。

「どういうことかな、命を狙われる覚えなんてないはずなんだが」

ひとしきりかき混ぜたところで手を止め、ゆっくりと茶色になったコーヒーをすする。

「まあ、状況に甘んじるというわけではないけれども、自分がどうやら狙われているということは受け入れなくちゃいけない。仕方がないことだ、好んでじゃないけれど、狙われているわけだから。問題はそこじゃなくて、今日の今日まで半年間切り抜けてきたその結果にもあるわけだけども」

ゆっくりとカップを置く。

「切り抜けたはずみに……本当に物のはずみなんだが、どうやらその刺客か何かを死なせてしまったらしい。大々的にニュースになるわけでもなくて、ほんの小さな新聞記事なんだが。それでも僕を狙った連中の記事が相次ぐから、間違いないだろう」

コーヒーを飲み、大きなため息をつく。店内の客のうち二人か三人が彼をちらりと見、すぐに何事もなかったかのように元のところへと視線を戻す。

「困ったな。これじゃまるで僕が連続殺人犯だ。そんな猟奇的な趣味はないのに、ただ今も狙われているんじゃないかと肝を冷やしているだけなのに」

再びコーヒーを飲む。嘆くように顔を手で覆った彼を、近くの席の女性が見やり、また視線を戻す。

「どうしたらいいんだ。大体、僕が狙われる理由がわからない。相手にも心当たりがない。ただなぜか命を狙われて、どうにか返り討ちにしたところで、相手が死んでしまっているということばかりでは……」

そのとき、喫茶店に新たに男性客がやってきた。木造りの扉を開け、ベルをからんと鳴らし、店内を一瞥し、もちろん男にも視線をくれてから、空いた奥の席へと足を運ぶ。

「……やつめ、間違いないな。次の男だ。僕を見て何か気取ったような風だったろう。……先手必勝というのが定石だと大体わかってきた、いったんここを離れて、相手の様子を窺おう」

コーヒーを飲み干し、カップをコースターへ乗せる。

「あいつがこっちを窺っていたように、あいつの後をつけて隙を狙ってやればいい」

近くの席の女性が再び男を見やり、また視線を戻す。

「チャンスがあれば、もちろん、先手必勝が定石だ」

男は席を立つ。机の上のコースターに置かれたカップは、ぽつんと佇む男のようでもあった。ずっと空席だった向かいの席に、何の注意も払わず席を立つ。その目つきは、眠りの足りない野生動物のようにぎらりとしている。

Fin.

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