monologue : Same Old Story.

Same Old Story

印象操作

「それほど難しい話ではないんですよ、種を明かすと」
「フェロモンとかそういうことですか?」
「正解とは言えませんが、イメージとしては大体そういうことです」

繁華街の裏手にあるような薄暗いビル、整体や怪しげな薬品店に立ち並ぶ、長屋の一角。表通りへ向けて申し訳程度に、地味な立て看板が新調されている。書かれている文句は『あなたの印象、変えます』。

「香料を使う、というのは正解ですね」

およそ六畳の店内に、顧客の青年男性一人と、親子ほどの年の離れた二人の従業員男性。年配の男性が、顧客に向けてオリエンテーションと料金説明、おおまかな仕組みを高説述べている。

「あなたの持ちたい印象に合わせて、香料を調合します」
「はあ」
「それを身に付ければ、あなたの対話相手があなたに抱く印象は、およそあなたの希望通りになるでしょう」
「しかし、そんな」
「簡単にいくか、とお思いですか」

受け付け台の足元に置かれた、挿絵付きの掛け看板を取り出す。

「好きな料理はありますか?」
「ええと、まあ、そうですね……鶏肉の」
「それです、イメージをすれば蘇るものがあるでしょう。味覚、視覚、嗅覚です」
「はあ」
「視覚は、すぐにはどうともしがたいところです。味覚は、人間相手には関係ないですね」
「はあ」
「そこで嗅覚です」

看板を平手で何度か打つ。乾いた音が響き、若い従業員がしかめ面をする。

「あなたも言ったでしょう、フェロモンなんてものを感じるという話を。フェロモンはまだ研究途上で実用段階ではないようですが、我々の研究は、遥か昔から用いられた香料が人間に及ぼす影響を緻密に研究しており、経験則にも基づく微妙な配合によって……」
「はあ」
「……まあ、物は試しとも言いますが、いかがです。今ならお安くしておきますよ」
「……はあ、じゃあ、まあ試しに」

顧客男性が、どことなくうつろな目でうなずく。年配の従業員が若い従業員に耳打ちする。

「どうだ、うまくいくだろう」
「嘘八百もいいとこだよ」
「ばか言うんじゃない、私はきちんと実用化してるんだぞ……今のところ一種類だが」
「自分に使ってる『信用を得る香料』ってんだろ」

にやりと笑い、年配の従業員は顧客に聞き取り調査を始める。若い従業員はつぶやく。

「どうだかね、俺はあんたのこと信用ならないよ」

Fin.

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