monologue : Same Old Story.

Same Old Story

噂の黒幕

『まだニュースになってないけど、今月に入ってから三件もあるんだって』

噂好きの友達から昼間に聞いた話が、さらに尾ひれを増したメールになって届けられる。

「ニュースになってない、だって、ふーん」

僕の携帯電話を手にして、頬にかかる髪を鬱陶しそうに耳にかけながら、どことなく不機嫌そうなため息をつく。

『今のところ行方不明事件だけど、部屋から血痕が見つかったとか』

かちかち、と、ボタンを操作してメールの画面を先送りしている。真っ暗な部屋の中で、彼女が操作する携帯電話の画面だけがぼんやりと光り、整った鼻筋に影を投げかけている。

「女の子の名前だけど……これ、誰?」
「同じクラスの子だよ、ただの友達」

手を伸ばしてもぎりぎりで届かない、微妙な距離から、彼女が疑いのような視線を向ける。

「だいぶ噂好きの子みたいね」
「うん、まあ、そうだと思うよ」
「ただの友達?」
「うん、ただの友達」

彼女の目付きは相変わらず、僕を品定めするようなもののままだった。鋭さを緩めることなく、手元の携帯電話に視線を移す。僕は身動きひとつできず、それをじっと眺めていた。

『共通してるのは、一人暮らしの若い男性で』

にやりと笑う彼女。

「まるっきりあなたのことね。心配してくれてるんじゃない?」
「どうだか。噂好きな子だから、色んなやつに送ってるんでしょ」
「こういうのってさ、実は黒幕っていうか、裏があったりして」
「黒幕?」
「噂に見せかけて、本当は警察なんかが情報を流してるの。そういうのどう?」
「どう、って」
「密かに情報収集をしてる、とか、ありそうな話だと思わない?」

不敵に微笑んだまま、携帯電話を操作する彼女。真っ黒な手袋をはめた細い指が、小刻みにボタンを叩き続ける。

『突然の失踪、部屋に血痕と、セミロングの女性の髪の毛』

ふふ、と、小さく声をもらす。

「まるっきり私のことね。黒幕って、あったりして」

微笑みにゆがんだ顔で、僕を見つめる。

「彼女の言うこと、もうちょっと真剣に聞いてたら、対策できたかも知れないのにね」

僕は、身動きひとつできないままでいた。後ろ手に縛られた手首の縄は緩みそうにない。噂好きの友達の言葉を真剣に聞き入れていれば、四件目の事件の被害者になることは防げただろうか。わからないが、僕の携帯電話をいじっていた見知らぬ女は、それを投げ捨て、微笑みを浮かべながら、僕に近付いてきた。

Fin.

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