Other Stories
目には目を : 2/5
- Strange
- http://www.junkwork.net/stories/other/00502
4 / 2 PM 3:28
「なんの騒ぎだ?」
人だかりに気がついて、シンヤは足をとめた。
「んー? なんなの?」
昨日からシンヤと一緒にいる女が、背伸びをして騒ぎの中心を見ようとする。もっとも、彼女の背丈で見越せるわけはないのだが。
「ミホ、ちょっとここで待ってろ」
「なんで? あ、ちょっと!」
彼女が絡んでいた腕をほどき、シンヤは人ごみをかきわけた。
(血のニオイがする)
ケンカの現場と同じ、錆びた鉄のような臭いがしていた。それも、軽い出血どころでは済まないほど強烈な。ミホに見せたらきっと気絶しちまう、とシンヤは小さくつぶやいた。
「わりぃ、ちょっと通してくれ」
群がる人をかきわけ、騒ぎの中心部に近付く。しばらく進むと急に視界が開け、そこに何があるのか見ることができた。
「……なんだ?」
人ごみの中心にあったのは、血で真っ赤に染まった T シャツだった。しばらく考え事をしながら見つめていたシンヤは、ふと気がついた。
(これと同じ T シャツ、ヨウイチが着てなかったか?)
嫌な予感を振り払うように、頭を二・三度振る。シンヤはまた人ごみの中を、今度は外に向かって進んだ。途中で携帯を取り出し、昨夜の電話の相手 ― カズマに電話をかけた。何度も何度も呼び出し音が響く。
" こちらはサービスセンターです。お客様がおかけになった電話…… "
「チクショウ、圏外か」
つぶやきとともに通話終了のボタンを押す。
「ねぇねぇ、何の騒ぎだったの?」
ミホと呼ばれた女が駆け寄り、笑顔でシンヤに尋ねる。
「……何でもねぇ、猫が死んでただけだよ」
「ふーん。アタシ見なくてよかったあ」
今見たものを忘れることにして、二人はまた腕を絡めて歩き出した。実際、翌日の朝刊にそのことの記事が載るまで、彼はさして気にとめてはいなかった。
“白昼、都内路上に血まみれのシャツ ―― 河川敷で見つかった遺体のものか”