monologue : Other Stories.

Other Stories

長い長い手紙 : 3/12

新幹線をキャンセルする電話を入れてから、僕はとりあえずベッドに腰かけた。そして手にした便箋を見つめて小さくうなった。

「何なんだろう? いや、誰なんだろう?」

愛の告白、の文面だろうこれは。そのくせ差出人の名前がないのは、気持ちが伝わればそれでいいってことだろうか。伝える側の正体がはっきりしないのに、伝わったと言えるのかどうかは知らないが。

「まるで高校生か中学生だな」

宛先を何度も何度も確認する。三十年慣れ親しんだ、間違いなく僕の名前。

「さてどうしたものか……何か手がかりは、っと」

便箋をひっくり返したり軽く折り曲げたりして見つめる。そこに手がかりがないと気づき、今度は封筒をじろじろと眺める。そして僕は、封筒の中に何か書いてあるのに気がついた。

「……? 何か文章が書いてある……?」

今度はペーパーナイフを持ち出して、封筒のつなぎ目にそって滑らせる。きれいに開けた封筒は一枚の手紙になっていた。

ごめんね、びっくりした? 他にいい方法が思いつかなくて。
この封筒に気づかなければ、それはそれでいいんだけど。

池脇 千佳子

「池脇……?」

聞いたことのあるような、ないような。毎日何十人もの名前を叫んでいる仕事柄、一度覚えた名前はそうそう忘れないのだが。ポケットの携帯電話を取り出して、メモリーから検索してみる。

「……ないな。ってことは……高校生か、中学生」

自分でつぶやいたセリフを思い出して納得する。そしてもう一度携帯電話を手にする。自宅へ電話して、謝りついでに頼みごとをするつもりで。

「……ああ、もしもし? ちょっと帰るのが遅れそうだよ」
「あら、お見合相手も見つかったっていうのにおじけづいたの?」
「いやそうじゃなくて、後で説明するから。それと頼みがあるんだけど」

小言を聞かされないうちに用件を伝え、今度は電話の前で待機することになった。しばらくすると、今度は母の方から電話があった。

「あったわよ、池脇さん。高校の頃の同級生」
「ああ、やっぱりか。住所と電話番号教えてよ」
「やっぱり? 知らないで調べさせたの?」
「だから、後でまとめて説明するから」

納得のいかなそうな母をなだめて、住所と電話番号をメモする。どうしようという考えがあったわけではなかったが、会ってみるのも悪くなさそうだ。

僕は帰省用の荷物を部屋に置き、鍵をかけるとアパートを後にした。久しぶりに悪巧みを思いついた少年のような顔で。

To be continued

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