1. monologue
  2. Other Stories
  3. チャイルドメイカー
  4. 電話の声

チャイルドメイカー

  1. 出会い、始まり
  2. セットアップ
  3. 現実的な
  4. 宅配便
  5. 助言
  6. 代償
  7. 電話の声
  8. 終わりの始まり
  9. おかしな噂
  10. 隠し事
  11. 忠告
  12. 幸せへ向けて
  13. 真相

電話の声

「はい、村井……なんだ、君か」
「なんだ、はないでしょう。せっかく人が心配して電話かけてるのに」

電話をかけてきたのは、僕の別居中の妻だった。別居と言っても合意の上ではなくて、彼女が一方的に飛び出したようなものだが。

「心配? 何の? 僕が養育費を稼げるかどうか、のかい?」
「ちゃかさないでよ。本当にあなたの体のこと、心配してるんだから」
「へぇ、どんな心配を?」
「ちゃんとご飯食べてるかなとか、また仕事詰めになってないかなとか……」
「まさか君からそんなセリフが聞けるとはね」

彼女は僕らの娘を連れて、ずいぶん前に僕のもとを離れた。当時は大げさに悲観したものだが、今となってはそうでもなかった。ただ、娘に一目も会わせてもらえないのは不満だが。

「そんなに心配なら、ずっとここにいれば良かったんじゃないのかい」

たまに彼女から連絡がある。大抵は電話で。その度に僕は、すねた子供みたいなことを彼女に言う。大人気ないとか、意地の悪いやり方だとはわかっているのだが。

「まぁそんなことはどうでもいいか。今日は何の用で電話を?」
「実は、あなたにも弁解の余地があるんじゃないか、って思ったのよ」
「それはまた寛大なことで」

彼女が出ていった理由は、僕が仕事の虫だったから、と聞かされている。

「で、どこで弁解させてくれるんだい? 家庭裁判所?」
「違うの、一度、あなたに会って話そうと思うの」
「……なんだって?」
「もちろん、亜理紗も連れて行くわ。ね? 悪くない話でしょう?」

願ってもない話だ。興奮して、一気に何もかも聞き出そうとする。

「いつ? 場所は? 時間はどれくらい?」
「ちょっと、待って、まだ何も決めてないのよ。また折り返し連絡するわ」

電話を切ってから、僕はしばらく放心状態だった。ずいぶんと久しぶりに娘に会えるし、もしかしたら、これからは定期的に会えるということになるかも知れない。いや、一緒に暮らすことだって有り得る。捕らぬ何とかの皮算用をしても仕方がないので、気持ちを落ち着けようと頬を二、三回はたいて目を開く。

ふと気付くと、パソコンのモニターに、さっきはなかったはずの文字が映し出されていた。

『誰からのお電話だったの?』
「…………!」

なんてことだ、この……電波まで探知するのか?

『仕事の電話だよ。さぁ、もう寝なさい』

返事を待たずに電源を落とす。理屈がわかっていても、嫌な汗をたっぷりかいてしまった。妻からの電話を待っている間にシャワーでも浴びよう。

To Be Continued