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チャイルドメイカー : 7/13
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「はい、村井……なんだ、君か」
「なんだ、はないでしょう。せっかく人が心配して電話かけてるのに」
電話をかけてきたのは、僕の別居中の妻だった。別居と言っても合意の上ではなくて、彼女が一方的に飛び出したようなものだが。
「心配? 何の? 僕が養育費を稼げるかどうか、のかい?」
「ちゃかさないでよ。本当にあなたの体のこと、心配してるんだから」
「へぇ、どんな心配を?」
「ちゃんとご飯食べてるかなとか、また仕事詰めになってないかなとか……」
「まさか君からそんなセリフが聞けるとはね」
彼女は僕らの娘を連れて、ずいぶん前に僕のもとを離れた。当時は大げさに悲観したものだが、今となってはそうでもなかった。ただ、娘に一目も会わせてもらえないのは不満だが。
「そんなに心配なら、ずっとここにいれば良かったんじゃないのかい」
たまに彼女から連絡がある。大抵は電話で。その度に僕は、すねた子供みたいなことを彼女に言う。大人気ないとか、意地の悪いやり方だとはわかっているのだが。
「まあそんなことはどうでもいいか。今日は何の用で電話を?」
「実は、あなたにも弁解の余地があるんじゃないか、って思ったのよ」
「それはまた寛大なことで」
彼女が出ていった理由は、僕が仕事の虫だったから、と聞かされている。
「で、どこで弁解させてくれるんだい? 家庭裁判所?」
「違うの、一度、あなたに会って話そうと思うの」
「……なんだって?」
「もちろん、亜理紗も連れて行くわ。ね? 悪くない話でしょう?」
願ってもない話だ。興奮して、一気に何もかも聞き出そうとする。
「いつ? 場所は? 時間はどれくらい?」
「ちょっと、待って、まだ何も決めてないのよ。また折り返し連絡するわ」
電話を切ってから、僕はしばらく放心状態だった。ずいぶんと久しぶりに娘に会えるし、もしかしたら、これからは定期的に会えるということになるかも知れない。いや、一緒に暮らすことだって有り得る。捕らぬ何とかの皮算用をしても仕方がないので、気持ちを落ち着けようと頬を二、三回はたいて目を開く。
ふと気付くと、パソコンのモニターに、さっきはなかったはずの文字が映し出されていた。
『誰からのお電話だったの?』
「…………!」
なんてことだ、この……電波まで探知するのか?
『仕事の電話だよ。さあ、もう寝なさい』
返事を待たずに電源を落とす。理屈がわかっていても、嫌な汗をたっぷりかいてしまった。妻からの電話を待っている間にシャワーでも浴びよう。