Other Stories
チャイルドメイカー : 8/13
- Beginning of the End
- http://www.junkwork.net/stories/other/01008
妻からの電話は思ったより早くて、翌日の夜にはいろんな計画を話された。
「やっぱり、亜理紗にも男親が必要なんじゃないかって思うの」
なぜか彼女は弱気らしく、懇願するような話し方さえした。僕は、そうだろう僕がいなきゃダメだろう、と言いたくて仕方がないのをずっとこらえていた。
「それで、話し合いをするのはいつがいいんだい?」
「できれば今週末にでも……ダメかしら? また仕事?」
「いや、なんとか……その日は空けれるように」
背広の上着から取り出した手帳とにらめっこして、今入っているスケジュールをどう動かすか、と頭をフル回転させる。
「これは接待だから……山崎に頼めば……」
「やっぱり、都合悪いかしら?」
「いやそんなことない、全然、心配しなくていい」
しどろもどろになりながらなんとか話をつけて、そのまま会社の同僚に電話をかける。
「あーもしもし、村井だけど、実はちょっと頼みたいことが……」
思いのほか交渉はスムーズにいって、僕は週末に一大チャンスを得ることができた。布団に顔をうずめて喜びを噛みしめていると、パソコンの電源が入った気配がした。なんだまた "アリス" か、とつぶやきながら画面の前に座る。ベッドからパソコンに近付くまで、僕は "アリス" の荷物にニ回足をひっかけた。
『どうかしたかい、何か足りないものでも?』
『誰からの電話だったの?』
ああまたかちくしょう、電話の電波に反応したな。独占欲の強い女に見張られているみたいで、気味というより気分が悪い。
『仕事の電話だよ、お前には関係ないことだ』
『でも、他の仕事の電話よりずっとずっと長かったわ』
「このっ……!」
なんてことだ、いちいちそんなことまで確認してるのか。どうにかして設定をいじって、勝手にパソコンを起動しないようにできないんだろうか。
『アリス、たまには電話も何も気にしないでゆっくりしたらどうなんだ』
『でもパパ、アリスはいつも一緒にいたいの』
『いつでも側にいるから、第一、大人の会話に子供が口出すものじゃない』
そう入力すると "アリス" は申し訳なさそうな顔をして、「ごめんなさい」と言って眠りについた。こんな表情も見せるのか、と僕は改めて感心した。
「そうだ、亜理紗が戻ってくるなら、もうこのゲームは」
僕はそうつぶやいて部屋の中を見回した。 "アリス" の荷物があふれ返りそうで、小さくため息をついた。そうだ、亜理紗が戻ってくるなら、このゲームはもういらないだろう。