Other Stories
カウントゲーム : 9/15
- An Assistance
- http://www.junkwork.net/stories/other/01809
Day 3, AM 8:15 Chapter 3; 菱田 優子
「ねぇ、どうかしたの? 顔色悪いよ」
「ううん、何でもない」
「優子、体弱いんだから、あまり無理しちゃだめだよ」
クラスメートの優しい言葉は何の力にもならなくて、ただ右から左へとまっすぐに突き抜けて、不安でいっぱいになった心を逆撫でしていくようだった。もうすぐ朝礼が始まる。
『……ガ……ッ、おはようございます、皆さん』
安物のマイクを何度か叩いて様子を見てから、校長が笑顔で話し始めた。優子の通う高校では、毎週月曜日の朝に定期朝礼が行われる。毎週毎週校長が一字一句変わらない挨拶で始める。十五分ほどの、有意義とは正反対の位置にある時間。
優子は落ち着かない様子で列に並んでいた。斜め前の男子生徒へしきりに視線を送る。彼なら何かできるかも知れない、そう心の中でつぶやきながら。
『それでは、今週も勉学に励んで、一生懸命頑張りましょう』
六十歳目前のずる賢い大人は、あんな無邪気な笑顔を意図せずにはできないだろう。彼女は毎週、校長の笑顔を見てそう毒づく。誰に言うわけでもないが。
「各クラス、教室で一時間目まで待機」
学年主任の低い声が指示を出す。朝礼の行われる体育館から、教室へと戻る人の波。その波をかきわけて、優子は一人の男子生徒の方へ歩いていく。
「ごめ、ちょっと通してっ……ねぇっ、深田君」
「菱田。何?」
呼び止められた男子生徒……深田と呼ばれた彼は、大して驚いた顔もせずに振り向いて言った。彼の表情からは何の感情も読み取れない。
「その、ちょっと聞いて欲しい話があるんだけど」
「何? 俺じゃなきゃだめなこと?」
「うん、そう、多分、君じゃなきゃだめだと思う」
人の波が立ち止まって話す二人を避け、川に立てた杭が水の筋を分けるように、二人の立つ場所からいくつかの流れができていく。
優子が人目を気にするような様子で、それまでより小さな声で言った。
「その、ゲーム……のことなんだけど」
その言葉を聞いて、深田の目付きが鋭くなる。優子は一瞬、自分は選択を誤ったのかも知れない、とそんな気になった。