monologue : Other Stories.

Other Stories

偶像崇拝

idol [ áidl ]
    1. 偶像; 聖像。
    2. 偶像神、邪神。
  1. 偶像視(崇拝)される人(もの)、崇拝物、アイドル

シナリオライター、21 歳男

ああ、彼女はきっと百年に一人の逸材さ。誰もが虜になってる。街を見渡せばわかるだろう? どこにだって彼女はいる。一目瞭然さ。看板にも、電光掲示板にも、どこにだって。彼女のいないところを探す方が難しい。いや、彼女に侵されてないところ、かな。彼女はきっと百年に一人の逸材さ。それだけの才能と美貌を兼ね備えてる。男だけじゃない。女だって彼女の虜だ。いや。街中が病気にかかってる。原因は彼女だ。

プロダクション社員、32 歳女

初めて見たときはもうびっくりしたわ。だってあんな幼い女の子に、胸が高まって仕方ないんですもの。言っとくけど私にそういう趣味はないわよ。ちゃんと亭主もいるわ。うまくやってる。そんなことはどうでもいいって? とにかく、社長がどこかから連れてきたのよ。幼くて小さなあの顔が微笑むとそれはもう、あたり一面がぱあっと……。それもよく知ってる? ええ、きっとそうでしょうね。 今や街中が彼女の笑顔であふれてるんだから。ねぇ、ここしばらく、街中が活気付いてると思わない? きっと彼女のおかげだわ。まるで天使よ。

フリーター、24 歳男

彼女のどこが魅力かって? くだらない質問だな。あの妖しい、セクシーな目付きに決まってるじゃないか。あの歳であの色気なら、数年後、世の男は彼女以外愛せなくなるね。おっと、冗談とか、からかい気分でこんなこと言ってるんじゃないぜ。少なくとも僕は本気でそう思ってるよ。プロダクションもせこいことしてないで、世界を視野に入れたらいいんだ。彼女は世界に羽ばたいていける器だね。世界中の男が彼女の虜になるんだ。ものの一週間もいらないだろう。この街を見なよ。もうすっかり骨抜きだ。腐ってるみたいだ。彼女は女も惑わすって? 病んでるのはこの街だけじゃなくて、世界中か?

システムエンジニア、36 歳男

うまいことやったもんだ。思いついても実行なんかしやしない。プログラムレベルで難易度が高すぎる。それだけじゃない。リアルタイムでの音声合成処理、背景透過、光源演算処理……。コストがかかりすぎてハイリスク・ローリターン。何考えてるんだか、製作者連中は。最初はそう思ったよ。だがこの街を見ればわかる。やつらは、この方法でこの街を支配下における、と踏んだんだ。実際にこの街はもう抵抗する気力もなくしてる。見事、の一言だよ。だけど、それも今日までだ。僕が暴いてやる。見ろ、予想通りスタジオには投影装置しか……だ、誰だ!? おい、何を、やめ

シナリオライター、21 歳男

思ったより、現実とはうまくいかないものだろう? いや、むしろうまくいったのかな。少なくとも連中にとっては。これで、民衆の大部分は幸せなままでいられることだろう。社会なんて、少数の犠牲の上に成り立ってる。

だが社会自体が犠牲者だなんて、誰が想像するだろう?

Fin.

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