Same Old Story
雪の夜、別れ道にて
- Holy Night, I Won't Forget
- http://www.junkwork.net/stories/same/007
「明日の飛行機で出発するわ。……長い間の夢だったのよ」
「わかってるさ。僕よりもその夢が大事だって事も」
翌日の夜、彼女は空港にいた。身の回りの物を詰め込んだスーツケースと、大きな期待と、小さな不安と。彼と離れてしまうのは悲しかったけれど、彼女にとっては夢を追いかけて飛び立つ事の方が大事だった。そして、彼は現在の地位を捨てる事が出来なかった。
「わかってるわ。お互いの居場所が違っただけなのよ」
彼女は自分に向かってつぶやいてみた。もうすぐ二十二時をまわる。飛行機の時間まであと三十分程だ。もう一度つぶやいてみた。
「たまたま合わなかっただけ。居場所が違っただけ。よくある事だわ」
飛行機の出発時間が近づいている。そろそろゲートに向かった方が良さそうだ。その時、滑走路の方に目をやると、白い粉雪がちらついていた。彼女は、いつか二人が出会った時の事を思い出していた。あの日もこんな雪ではなかったか。
アナウンスが入った。
" 雪のためしばらく運航を見合わせます…… "
そして一時間半は過ぎた。雪は止まず、出発のめどは立ちそうになかった。日付も変わるのかとため息をついた彼女に、思わぬ客人が現れた。彼は花束を携えていた。
「どうしてここに……?」
「もしかしたら、と思って。メリークリスマス」
彼女は、自分の飛行機が十二月二十四日発である事さえも忘れていた。そして、もう日付は変わるところだった。花束を受け取ると、一瞬泣いてしまいそうになった。
「……ねぇ! やっぱり私たち」
「二人の新しい門出の祝いに。……向こうへ行っても元気で」
彼女は彼を引き止めようと考えたが、彼は振り返らなかった。
アナウンスが告げた。
" 只今より運航を再開致します…… "
彼女は顔をあげ、前へ進む決意をした。そして二人は、正反対の方向へと歩き始めた。大きな期待と、小さな不安を胸に。
Fin.