Same Old Story
二週間
- The Scent
- http://www.junkwork.net/stories/same/008
彼の家から帰る間、彼は無言だった。
もう二年ぐらいの付き合いになるのだろうか。しかし、こんな事は初めてだった。理由なんてわかりはしないが、その空気の重さに私は耐えられなかった。……が、何度口を開きかけてもすぐに閉じてしまうのだった。閉じなければならなかった。
彼の部屋に知らない物が増えていた。二週間ぶりに会った彼からは以前とは別の香水の香りがした。私に見せる表情もどことなくよそよそしい、直感的に私はそう思った。
この二週間の間に何があったのか、考えてみても私には知る由もない。
……そう言えば、確か二週間前に、彼が私の家を訪れた事があった。そのとき私は不在だったのでそのことは後で知ったのだが、三時間も私の帰りを待ってくれていたらしい。私はどうしても外せない用事で、彼が帰った約三十分後に帰宅した。その後一度だけ電話したのだが……。
あの時の事を怒っているのだろうか。真剣に謝らなかった事を気にしてるのだろうか。
しかしこの空気は、何か別のものを示しているような気がしてならなかった。
「……ねぇ?」
彼が振り向き、じっと私を見る。彼は、私の次の言葉を待っているようだった。私は、自分自身の次の言葉が自然に出てくるのを待っていた。
がしかし、時間が過ぎていくだけだった。彼は振り向き、私の少し前を歩き出した。彼の背中がとても遠くに見えた。
私は、自分の涙の意味がよくわからずにいた。
家に帰った私を最初に迎えたのは妹だった。彼女は少しだけ笑みを浮かべて言った。
「おかえりなさい、お姉ちゃん」
私は、彼の新しい香水が、彼女と同じ物だと知っていた。
Fin.