monologue : Same Old Story.

Same Old Story

交換殺人

「見極めろ……見極めろ……」

二ヶ月前に、ネットである男と知り合った。いや、男かどうかはわからない。彼 ― 仮に彼と呼ぶ ― は、僕にある依頼を持ち掛けた。

お互い、邪魔な人物を消しませんか?

いわゆる交換殺人というやつだ。僕は彼の素性は知らないし、彼も僕を知らない。互いのターゲットのことも知らないし、知る必要もない。ことが済めば彼とのつながりは一切消えてなくなるだろうし、警察は動機も犯人もつかめない。

完全犯罪だ。そして、目の前に彼のターゲットがいる。

「見極めろ……見極めろ……」

が、ここで僕はあることに気がついた。

" 僕が殺人を犯しても、果たして彼の方は実行するだろうか? "

契約はない。保証もない。僕だけが殺人者になる可能性もある。そしてつまり、それはこういうことでもある。

" 僕が実行せず、彼だけが実行するとなったらどうだろう? "

いわゆる、ゲームの理論というやつだろう。

どうせ関係はこれきりで切れてしまうのだ。契約違反だとわめいても、彼には弱みがある。交換殺人を遂行しなかったからといって、僕を訴えることなどできやしないだろう。そうするにはまず、彼が殺人を犯したという事実が他人に知れてしまう必要があるのだから。それに、お互いに素性は知らないのだ。彼だけが汚れれば僕は無実だ。

「見極めろ……見極めろ……」

……やめよう。

ただの子供のいたずらかも知れない。それにもし彼だけが殺しを実行しても、僕に損はない。そう思って立ち上がった瞬間、背後の闇から小さな声が聞こえた気がした。それは、迷いに迷った末に決心した声のように聞こえた。

「……やっぱりやめよう。契約も保証もない」

僕は、何故だか背筋が凍る思いがした。

Fin.

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