monologue : Same Old Story.

Same Old Story

性別

ここのところ、チャットにはまっている。パソコンを使って、文章だけでリアルタイムに会話をするというものだ。相手の顔も見ないで会話なんてどこが楽しいんだ、などと思うかも知れないが、これがなかなか面白い。顔が見れないからこそ、というのもあるのだ。

特に僕のような人間の場合は。

僕は、いわゆる "ネカマ" というやつなのだ。実際の性別とは違うふりをして会話をする。僕の場合は女性のふりをしているわけだ。

性別を偽るなんてマナー違反じゃないかと思うかも知れないが、僕に言わせれば、そうわめきたてる方がよっぽどたちが悪い。そういうことを言うやつのほとんどは、ネットで知り合った相手と実際に会うのが目的で女性と会話しているんだから。その方がマナー違反だと僕は思う。

次の日曜、予定はあるかい?

今会話中の、この男。こいつこそその典型だ。ひとつこらしめてやろうか。

いえ、空いてるわ。

僕たち、会えないかな?

いいわよ。じゃあ日曜、駅前にいらして。

わかったよ。目印はいるかい?

じゃあ、胸に赤いバラを刺しておいて。私は白いバラを刺すわ。

わかった。楽しみにしているよ。

大成功だ。今どき、胸にバラを刺す男なんてそう見ない。駅前を待ち合わせ場所に指定したのも作戦のうちだ。道行く人々全員に笑い者にされるだろう。こみあげる笑いをこらえながらパソコンの電源を落とす。

僕は、日曜を楽しみにしながら一週間を過ごした。

そして日曜。当然僕は普段着で駅前に出かけた。やつはどこに現れるだろう? そろそろ時間なのだが……なかなか現れない。僕は何気ない素振りであたりを見回した。

そして、すぐ隣にいる女性に気がついた。その女性は、僕のように好奇の表情で、誰かを探しているように見えた。

Fin.

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