Same Old Story
三流
- Life, As If It Was Drama
- http://www.junkwork.net/stories/same/018
薄暗いひとけのないバーで、高そうなスーツを着た男がバーテンに絡んでいた。
「なァ、あんたはどう思うよ?」
「さあ、何が "どう" なのか存じませんので」
男はカクテルを飲み干すと早口に言った。
「俺は一流の俳優だよ。超がつくぐらいのな。それがどうなってやがる?」
「どうかなさいましたか?」
「惚れ込んでる女が、田舎に帰るとさ!」
「ご一緒するので?」
男はバーテンを睨み付けて言った。
「ばかやろぉ、超一流の俺がそんな三流ドラマみたいな真似できるかよ」
バーテンは、グラスを磨く手を止めて言った。
「私には演技のことはわかりませんし、あなたのこともよく知りません」
「ああそうかよ」
「ですが……二流であれ三流であれ、ドラマはドラマでしょう?」
「…………」
「人生がもしドラマなら、仕事より名誉より選ぶべきものがあるでは?」
男は黙って席を立った。
「外にハイヤーがおります。空港まで直行ですからどうぞ」
「……ぼろいバーのわりに気が利くじゃねぇか」
「ぼろくても豪華でも、バーはバーですから」
男は目くばせをしてバーを出た。
薄暗いバーに客はいなくなったが、バーテンは満足そうだった。
Fin.