monologue : Same Old Story.

Same Old Story

三流

薄暗いひとけのないバーで、高そうなスーツを着た男がバーテンに絡んでいた。

「なァ、あんたはどう思うよ?」
「さあ、何が "どう" なのか存じませんので」

男はカクテルを飲み干すと早口に言った。

「俺は一流の俳優だよ。超がつくぐらいのな。それがどうなってやがる?」
「どうかなさいましたか?」
「惚れ込んでる女が、田舎に帰るとさ!」
「ご一緒するので?」

男はバーテンを睨み付けて言った。

「ばかやろぉ、超一流の俺がそんな三流ドラマみたいな真似できるかよ」

バーテンは、グラスを磨く手を止めて言った。

「私には演技のことはわかりませんし、あなたのこともよく知りません」
「ああそうかよ」
「ですが……二流であれ三流であれ、ドラマはドラマでしょう?」
「…………」
「人生がもしドラマなら、仕事より名誉より選ぶべきものがあるでは?」

男は黙って席を立った。

「外にハイヤーがおります。空港まで直行ですからどうぞ」
「……ぼろいバーのわりに気が利くじゃねぇか」
「ぼろくても豪華でも、バーはバーですから」

男は目くばせをしてバーを出た。

薄暗いバーに客はいなくなったが、バーテンは満足そうだった。

Fin.

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