Same Old Story
冷たい風
- In the Gentle Wind
- http://www.junkwork.net/stories/same/019
「冷たい風に 吹かれても」
大きく息を吸い込んだ。
「ひとりでも僕は」
僕は嫌なことがあると、いつもこうしている。表に出て詩の朗読をするのだ。今日は特別に嫌なことがあったから、寒空の下、即興の詩を叫んでいる。
「冷たい風に 吹かれても」
もう一度息を吸い込む。
「ひとりでも僕は……」
彼女の言葉が頭の中を駆け巡った。"ごめん、もう会えない" ……なんて。ひどいじゃないか。あまりに唐突じゃないか。こぼれそうになる涙をこらえて、僕は空を見上げた。
「冷たい風に 吹かれても」
空気が冷たい。さっきより声を張り上げて、何かを打ち消すように叫んだ。
「ひとりでも僕は……!」
「ひとりじゃないから」
驚いて振り返るとそこには、優しく微笑む彼女の姿があった。そしていつのまにか、僕の目からは涙があふれ出ていた。
「ひとりじゃないから……歩けるんだ」
彼女は優しく微笑んでいた。
Fin.