Same Old Story
天体観測
- Celestial Observation
- http://www.junkwork.net/stories/same/027
私は、愛用の望遠鏡を持ってベランダに出た。軽く調整をしてレンズを覗くと、いくつかの星が輝いて見えた。
肉眼で見えないものが観たかった。気が遠くなるくらい遠くの星を。だから望遠鏡を覗いた。
ブランデーの栓を開けた。グラスの半分まで注ぎ、右手に持つ。
「遠いから見えないんじゃないんだ」
父の言葉だ。
「観ようとしないから見えないのさ」
目で見るんじゃない。父はそう言った。
もう一度望遠鏡を覗く。さっきよりも輝いて見える。
あの頃は、父が何を言っているのか全く理解できなかった。今は何となくわかる気がする。
「……あなたは今夜、何を想っていますか?」
空に向かってつぶやく。
「私は、あなたのことを想っています」
見えないものは、案外近くにあるのかも知れない。最近、私はそう思うようになった。
Fin.