monologue : Same Old Story.

Same Old Story

保険

「もうたくさんだ、出て行け!」

アパートのある部屋から、一人の男が突き飛ばされた。

この男は保険外交員で、この住人をしつこく勧誘していた。最初は生命保険やがん保険、火災保険、地震保険など、やがて泥棒保険、寝坊保険、果ては結婚保険などという奇妙なものまで持ち出して住人を勧誘した。

住人にしてみれば迷惑な話だった。外交員は手を変え品を変え自分を勧誘する。ようやく追い出したが、次は何を持ってくることやら。

そう思っていると、またドアをノックする音がした。

「もう来るなとあれほど……!……? あなたは?」
「悪質な勧誘にお困りでしょう?」

そこにいるのはさっきまでの外交員ではなかった。

「私はあなたのような方を助けるためにまいりました」
「どうせ別口の保険外交員なんだろ?」
「ただの保険とは違います。その名も "勧誘保険" です」
「勧誘保険だと?」
「あなたがもし外交員に勧誘された場合、一回につき最大五万円までお支払いいたします」
「……本当か!? すぐに入る! 契約書を持ってこい!」

住人はろくに確認もせずに契約書にサインをした。よほど保険の勧誘にまいっていたのか、実に満足そうな顔だった。

三十分後、最初の外交員と後の外交員が喫茶店で話をしていた。

「しかしこの保険は飛ぶように売れるな」
「勧誘保険とはよく言ったよな。早い話、彼が勧誘されなければこっち側に損はないわけだ」
「もうあの家には行かないさ。彼は俺たちが同じ保険会社だ、ってことに気付かなかったのか?」
「しかもこんな料金……火災保険に二十回は入れるぜ」

最初の方の外交員が、タバコを灰皿に押し付けながら言った。

「正気じゃないね。会社も、サインする客も」
「勧誘する俺たちもな……俺は絶対に入らないけどな」

Fin.

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