monologue : Same Old Story.

Same Old Story

奇妙なこと

ある男がバーで飲んでいると、隣の男が話し掛けた。

「うかない顔をされてどうかなされたかな?」

確かにその男は、ひどく落ち込んでいる様子だった。

「いえ、このところ奇妙なことが続きましてね」
「ほう、それはそれは。いったい何が?」
「酒の肴としてでも聞いてやってください」

落ち込んだ男は、ため息まじりに言った。

「このところ、朝起きると女房が枕元に立ってるんです」
「それで?」
「"あの人がこの布団を使うことはもうないんだ" と言うのです」
「あの人とは? あなたのことですか?」
「でしょうね。女房は浮気なんか出来るタチじゃありません」
「あなたが寝ているのに、もう使うことはない、と?」
「ええ。奇妙な話でしょう?」
「奥さんにそのことを話されました?」
「いいえ。ひどく落ち込んだ様子で、話し掛けても反応しないのです」

落ち込んだ男は、もう一度ため息をついて言った。

「まるで自分が死んでしまったようです」
「そんなことを言うもんじゃありませんよ」
「だってそうでしょう」
「いや、そんな」
「案外、僕は死んでるのかも知れませんね」
「ははは、あなたは死んだ自覚がないのでしょう?」
「僕が知らないだけかも」
「そんな、まさか」

隣に座った男は、落ち込んだ男の手を取り脈を確かめた。

「ほら、生きている。ちゃんと脈があります」
「ああ、それはよかった。僕は生きているんですね」
「それにしても、奇妙な話ですね」
「ええ。女房は三ヶ月前に事故で亡くなったのに」

Fin.

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