Same Old Story
あなた
- You
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「ねぇ、あなたはどこに行ってしまったの?」
彼が失踪した。置き手紙も思い出も残さずに。警察では家出として扱われたが、私には思い当たる節が全くない。
「お願い……今すぐここに戻ってきて」
彼と私の、二人の写真を見つめて言った。何になるとは思わないが、他にできることはない。
「お願いだから……」
本当に生きているのだろうか、とそんなことも考えた。その度に自分を叱った……彼は必ず帰ってくる、と。そのとき、私の脳裏にひらめいたものがあった。
「……彼のコーヒーカップ」
コーヒーを二人分用意した。彼のお気に入りのカップを準備すれば、彼がすぐに帰ってくるような、そんな気がした。
しかし、何時間待っても彼は帰ってこなかった。私はついウトウトとし、二人の写真にコーヒーをこぼしてしまった。
「……! いけない、私ったら……!」
すぐに拭き取れば何とかなっただろうし、ネガの残っていることも覚えていた。しかし私は、自分でも予想しなかった言葉を口にしていた。
「汚れちゃった……もういいわ。どうせ彼は帰ってこないんだし」
そして無意識のうちに、写真をくずかごへ放っていた。
Fin.