monologue : Same Old Story.

Same Old Story

クローン

21 世紀の後半の世界では、20 世紀中にはおよそ想像もされていなかったような社会構造が出来上がっていた。

ある役所に、一人の男が訪ねてきた。

「今日この街に引越してきたばかりなんだけど……。この州では、クローン産業は盛んなのかい?」
「ええ、もちろん。身分証明をお持ちいただければすぐにでも」
「いや、今日は生産してほしいんじゃないんだ」
「となると、処分でしょうか?」
「まあそんなとこだが」
「では処分の理由を申請してください」
「誤って階段から落ちたんだ。修復するのも面倒でね」
「では、クローン登録証を」
「……それが、登録証をなくしてしまったんだ」
「あなたのクローンですか?」
「そうだよ。家事手伝いにロボットは味気なくて」
「ではそのクローンをお持ちください。DNA を確認しますので」

男が指を鳴らすと、ロボットが一人の人間を抱えてきた。それは、その男に何から何までそっくりで、ただひとつ違う点と言えば、頭部に大きな損傷があるくらいだった。

「確かにこれは修復に手がかかりますね……DNA を確認します」

そう言うと役員は、小さな機械で男の手をなでた。

「……全て一致しますね。では右の廃棄場へお持ちください」

役員の指差した方向には、大型の機械が置いてあった。人が一人通れるくらいの入り口の上に、"廃棄場" と文字が表示された液晶看板が掲げてある。看板の前に立つと、男はつぶやいた。

「嫌な世の中になったな……双子の弟を殺しても疑われないんだから」

男は、機械の中に "クローン" を放り込んだ。

Fin.

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