Same Old Story
バス停
- Bus Stop
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「もう行かなきゃ」
彼女がそう言っても、彼は微動だにしなかった。ただ、飲みかけの缶コーヒーを片手でもてあそぶだけだった。バスの時間が近づいている。
「いろいろありがとう」
彼女が笑顔で言った。
「本当はもう少し一緒にいたかったけど」
彼女の笑顔が少し曇る。
「そうもいかないよね」
彼は何も言わなかった。じっとコーヒーの缶を見つめるだけだった。やがて、一台の市バスが音をたててやってきた。
「もう行かなきゃ……一緒に帰る?」
彼女は、希望と諦めの混じった表情で問い掛けた。少し間をおいて、彼が口を開く。
「……歩いて帰るよ。まだこれも残ってるし」
そう言って彼は、コーヒーの缶を振ってみせた。
彼女を乗せてバスは走り出した。彼の知らない、はるか遠くの地まで走ってしまいそうな勢いで。
彼は、とっくに空になっていた缶を置いて歩き出した。
Fin.