Same Old Story
銀の砂時計
- Silver Sandglass
- http://www.junkwork.net/stories/same/055
「行ってきます」
僕は仕事に出る前に、必ず砂時計をひっくり返す。家に帰る頃には、当然砂は落ちきっている。でも、これをしないと一日が始まる気がしないのだ。
銀色の砂時計。彼女がくれた、砂時計。
もう半年も前のことになるのか。今でも鮮やかに蘇る記憶。
「もういいっ!」
それが、彼女の最後の言葉だった。最後の喧嘩の二日後、彼女はトラックにはねられた。僕が病院に到着するまでの十五分の間に、彼女はあっけなく死んでしまった。
人の命はなんてもろく儚いのだろう。そして、過ぎゆく時のなんて残酷なことなのだろう。
銀色の砂時計。逆さまにしたら、時間もさかのぼればいいのに。彼女との時間が戻ればいいのに。砂時計はただ時間を刻み続ける。ときに立ち止まり、じっとひっくり返されるのを待ちながら。
「行ってきます」
誰もいない部屋に呼びかける。そして砂時計をひっくり返し、今日も僕は仕事に行く。
きっと、いつか彼女のところへ行く日まで。
Fin.