Same Old Story
電車の中の二人
- The Two in the Train
- http://www.junkwork.net/stories/same/060
「"違う" って言わないんだ?」
彼女はうつむいたまま、つぶやくように言った。電車が速度を落とす。駅が近いことを示している。
近いのは駅だけか? 終わるのはこの気まずい空気だけか?
「……何も言わないんだね」
うつむいたままの彼女が、うつむいたままの僕に言った。彼女の表情は読み取れない。綺麗な黒髪に隠れて、僕の推察すら拒んでいるようだった。
泣いているのか? 彼女が?
僕がか?
扉が開く。
「私、ここだから」
彼女は歩き出した。
「じゃあね」
振り返ってそう言うと、彼女は僕を見つめた。まだ何か言いたそうだったが、彼女はそのまま電車を降りた。そして、今度は振り返ることなく歩き出した。
閉まる扉が、二人のつながりを断ち切るように見えた。
Fin.