monologue : Same Old Story.

Same Old Story

指の鎖

「じゃあ今度、二人でどこかへ旅行に行こうよ」
「いいね。二、三泊でゆっくりしたいな」

今僕は、一人の人間として、してはならない事をしている。僕と旅行の計画をたてている彼女は、僕の恋人ではない。僕には彼女とは別に恋人がいるのだ。

「私の車で行こうか?」
「運転が心配だな」

冗談半分に言う。左手の中指の、恋人からもらった指輪をちらりと見た。

「こう見えても運転上手いんだから」
「へぇ……本当かな?」

恋人からもらった指輪。925 だったか何かのシルバー製で、表面にはネイティブアメリカンのレリーフが彫ってある。

「じゃあ今から証明するよ。車まわしてくるから待ってて」
「安全運転心がけなよ」

彼女は車を取りに行った。僕は、一人のうちに指輪を外してしまおうと思った。どこかうしろめたかったのかも知れない。ところが、指輪は外れなかった。

「なんだ、こりゃ……抜けなくなっちまったか?」
「悪いことをしないように、見張っているのさ」

確かに、指輪の顔が動いた。そして、ものすごい形相で僕をにらんだ。僕はそれが、怒ったときの彼女の顔に似ているような気がした。

Fin.

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