Same Old Story
赤色
- Red
- http://www.junkwork.net/stories/same/071
ふと目を覚ます。車内を見回すと、ずいぶん人は減っていた。まあ地下鉄の終電ならそんなものだろう。同じ車両には、僕の向かいに女性が座っているだけだった。
(綺麗な人だな)
スーツのよく似合う、センスのいい女性だ。どこかの上品な会社の OL だろうか?
(赤一色ってヤツか)
スーツも時計も、マニキュアもバッグも。とそのとき、彼女はバッグを開けて中身を探りはじめた。探しものだろうか。
(爪も綺麗だな)
赤い爪が、赤いバッグを探る。赤いスーツに赤い口紅の彼女が。赤い腕時計に赤いイヤリング、それに赤いハイヒール……
……ん?
彼女の足元に小さな赤いものが落ちている。
(……あれは?)
小さくて細長い……
ああ、なんだ。ただのつけ爪だ。なるほど綺麗な爪のはずだ。バッグの中を探っていたのは、これを探していたのだろうか。
(声をかけてみるか)
どんな声なのか、少し興味もある。
「……あの」
「はい?」
「足元に、つけ爪落ちてますよ」
「……あら、ありがとうございます」
彼女は想像以上に綺麗な声をしていた。僕は、お礼を言われて少しだけいい気分になっていた。彼女の赤い爪の指が、赤いつけ爪を拾う。
……?
赤い爪が……彼女の指と合わせて十と一つ。右手も左手もちゃんと爪がある。
(予備の爪、なんてことはないよな)
じゃあ一体何の……?
彼女は前かがみの姿勢になって爪を拾った。そのとき僕は、赤色のバッグの中に、人間の手首を見た気がした。
爪がはがされた手首、切り取られた手首。血で真っ赤に染まったバッグの中に。
Fin.