monologue : Same Old Story.

Same Old Story

赤色

ふと目を覚ます。車内を見回すと、ずいぶん人は減っていた。まあ地下鉄の終電ならそんなものだろう。同じ車両には、僕の向かいに女性が座っているだけだった。

(綺麗な人だな)

スーツのよく似合う、センスのいい女性だ。どこかの上品な会社の OL だろうか?

(赤一色ってヤツか)

スーツも時計も、マニキュアもバッグも。とそのとき、彼女はバッグを開けて中身を探りはじめた。探しものだろうか。

(爪も綺麗だな)

赤い爪が、赤いバッグを探る。赤いスーツに赤い口紅の彼女が。赤い腕時計に赤いイヤリング、それに赤いハイヒール……

……ん?

彼女の足元に小さな赤いものが落ちている。

(……あれは?)

小さくて細長い……

ああ、なんだ。ただのつけ爪だ。なるほど綺麗な爪のはずだ。バッグの中を探っていたのは、これを探していたのだろうか。

(声をかけてみるか)

どんな声なのか、少し興味もある。

「……あの」
「はい?」
「足元に、つけ爪落ちてますよ」
「……あら、ありがとうございます」

彼女は想像以上に綺麗な声をしていた。僕は、お礼を言われて少しだけいい気分になっていた。彼女の赤い爪の指が、赤いつけ爪を拾う。

……?

赤い爪が……彼女の指と合わせて十と一つ。右手も左手もちゃんと爪がある。

(予備の爪、なんてことはないよな)

じゃあ一体何の……?

彼女は前かがみの姿勢になって爪を拾った。そのとき僕は、赤色のバッグの中に、人間の手首を見た気がした。

爪がはがされた手首、切り取られた手首。血で真っ赤に染まったバッグの中に。

Fin.

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