Same Old Story
返品
- Cooling-off
- http://www.junkwork.net/stories/same/077
「クリスマスだってのについてないわ」
「仕方ないよ、売る側だって悪気があってのことじゃないし」
彼女はむくれたままで歩き続けた。
「それにクリスマスはもう終わったんだし」
なんのことはない、ただの不良品だ。彼女が僕にくれたプレゼントの指輪が箱の中で二つに割れていた。彼女をなだめるうちに、郵送の最中に不手際があったのだろうということになった。そして今、指輪を買った百貨店に文句を言いに行くところなのだ。
「一応交換してくれるだろうから、ね?」
「そうじゃなくて!」
彼女が声を張り上げて言った。
「クリスマスだから!クリスマスだから意味があったと思わない!? せっかくの……」
「まあまあ……」
一晩過ぎてもこれだ。昨晩が営業時間外でなかったら大変なことになっていただろう。
百貨店に着いた。彼女は駆け足で店員に近寄り、矢継ぎ早にまくしたてた。割れた指輪を指さして何度も言う。
「申し訳ございません、交換いたします」
店員は平謝りだった。
「交換じゃなくて返品でいいわ。それに GH02 もあまり良くなかったから返品するわ」
(……? 何のことだ?)
そのとき僕の首すじに誰かの手が伸び、何かをひねった。テレビの切れるような音が聞こえたと思った瞬間、僕は全身の力が抜けて倒れた。
店の奥にセール用の旗が見えた。
" 新機種恋愛型アンドロイド GH02 セール "
最後に、彼女が店員にグチるのが聞こえた。
「だって、クリスマスなのにロマンチストじゃないんだもの」
Fin.