Same Old Story
罪と懺悔と罰
- Crime, Confession and Punishment
- http://www.junkwork.net/stories/same/078
「お願いします」
木の匂いがする。小さな窓が開き、顔が見えない網ごしに神父さまが言う。
「あなたが罪を悔い改めるなら、主は必ずやお許しになります」
懺悔室に入るなんて、まるで映画のひとコマみたいだ、なんて、少しも思いもしなかった。ただ重い空気の中、網ごしに見える影が僕を責め立てていた。
「神父さま、今から僕の罪を話します」
「聞きましょう。主があなたの懺悔を見届けるよう祈ります」
「僕は、殺人を……人を殺しました」
神父さまは、微動だにしなかった。聞き慣れた話なのか、嘘だと思ったのか。
「僕はある組織の一員で、そいつとは仕事の仲間でした」
僕は麻薬組織の密売人で、そいつは麻薬の運び屋だった。
「ある日、彼が僕に言ったんです」
僕が売り上げの一部をかすめていることを、あいつはどこかからかぎつけていた。
「お前の不正を報告する、と。僕は逆上して銃を抜きました」
あいつは言った。ここまできたら、もうお前は引き下がれない。俺に殺されるか、それとも、余生を塀の中で過ごすか、と。
引き金をひいてから、僕の毎日は苦悩の連続だった。
「彼を殺したことで、僕は組織に狙われるでしょう」
もう追手は迫ってきているかも知れない。
「きっと拷問を繰り返された後に殺される運命です」
「……あなたの話はわかりました。右手にボタンが見えますか?」
しばらくぶりに口を開いたかと思うと、神父さまは妙なことを言いはじめた。確かに、右の壁に木製のボタンがあった。
「これはいったい、何の……?」
「ありますね? では次に、頭上に鉄のパイプのようなものがあるのがわかりますか?」
見上げると、確かに黒光りする細い筒状の……。しかし、これはどこかで見覚えが……。
「何度経験がありますか? 銃口と向かい合うということは」
なんてことだ。あれは僕の銃だ。やつを殺した後に処分したはずの。
「拷問などという非人道的な行いからあなたを救いましょう」
こいつは、この神父は……?
「その右手のボタンを押せば、弾丸があなたの頭に命中します。苦しみは一切ないでしょう」
「……神父さま」
「それとも」
神父が、窓に顔を近づけて言った。
「それとも、余生を塀の中で過ごしますか」
「……! 僕は……っ」
選択のなされないまま小窓は閉まり、懺悔室に銃声が響いた。
Fin.