monologue : Same Old Story.

Same Old Story

罪と懺悔と罰

「お願いします」

木の匂いがする。小さな窓が開き、顔が見えない網ごしに神父さまが言う。

「あなたが罪を悔い改めるなら、主は必ずやお許しになります」

懺悔室に入るなんて、まるで映画のひとコマみたいだ、なんて、少しも思いもしなかった。ただ重い空気の中、網ごしに見える影が僕を責め立てていた。

「神父さま、今から僕の罪を話します」
「聞きましょう。主があなたの懺悔を見届けるよう祈ります」
「僕は、殺人を……人を殺しました」

神父さまは、微動だにしなかった。聞き慣れた話なのか、嘘だと思ったのか。

「僕はある組織の一員で、そいつとは仕事の仲間でした」

僕は麻薬組織の密売人で、そいつは麻薬の運び屋だった。

「ある日、彼が僕に言ったんです」

僕が売り上げの一部をかすめていることを、あいつはどこかからかぎつけていた。

「お前の不正を報告する、と。僕は逆上して銃を抜きました」

あいつは言った。ここまできたら、もうお前は引き下がれない。俺に殺されるか、それとも、余生を塀の中で過ごすか、と。

引き金をひいてから、僕の毎日は苦悩の連続だった。

「彼を殺したことで、僕は組織に狙われるでしょう」

もう追手は迫ってきているかも知れない。

「きっと拷問を繰り返された後に殺される運命です」
「……あなたの話はわかりました。右手にボタンが見えますか?」

しばらくぶりに口を開いたかと思うと、神父さまは妙なことを言いはじめた。確かに、右の壁に木製のボタンがあった。

「これはいったい、何の……?」
「ありますね? では次に、頭上に鉄のパイプのようなものがあるのがわかりますか?」

見上げると、確かに黒光りする細い筒状の……。しかし、これはどこかで見覚えが……。

「何度経験がありますか? 銃口と向かい合うということは」

なんてことだ。あれは僕の銃だ。やつを殺した後に処分したはずの。

「拷問などという非人道的な行いからあなたを救いましょう」

こいつは、この神父は……?

「その右手のボタンを押せば、弾丸があなたの頭に命中します。苦しみは一切ないでしょう」
「……神父さま」
「それとも」

神父が、窓に顔を近づけて言った。

「それとも、余生を塀の中で過ごしますか」
「……! 僕は……っ」

選択のなされないまま小窓は閉まり、懺悔室に銃声が響いた。

Fin.

Information

Copyright © 2001-2014 Isomura, All rights reserved.