Same Old Story
心象風景の空
- The Gray Sky Is Romantic, but
- http://www.junkwork.net/stories/same/080
上がりたての空はまだ曇っていた。十分すぎるほどに雨を降らせても、まだ何か未練があるように思えた。
(心象風景に天気を重ねる小説家がいたな)
コンクリートの冷たい壁にもたれて、青年は好きな小説家のことを思い浮かべた。彼女の部屋を飛び出すのがもう少し遅ければ、寒さに震えることはなかっただろう。
もっとも、追い出されたという方が事実には近いのだが。
(ツイてねぇなあ……)
軽く舌打ちをする。
" 優しすぎるよ "
彼女の言葉がよぎる。
" 優しすぎる "
" ……そんなこと言われたって……! "
唇を強くかんだ。
" 優しいから誰だろうと受け入れちゃう "
" そんなこと……! "
" 本当は私でなくてもいいはずだよ "
" ……そんなこと…… "
鼻をすする。寒さより他に、何かがこみあげてきた。
" 優しすぎだよ。頼られる度に受け入れても仕方ないと思う "
" ………… "
彼女には恋人がいる。自分は浮気相手ということくらい、十二分に承知していた。例え利用されるだけの関係でもいいと思ってさえいた。
" 優しすぎだよ…… "
彼女は機械音声のように繰り返した。
(そんなんじゃ……)
確かに、頼られる優越はあったかも知れない……と彼は思った。
" でも俺は "
" 私が好き? でも、それは私があなたを頼ったからかも知れないのよ "
" ………… "
" ……今度からは、受け入れるよりも、その子を導いてあげて "
今度からは。随分と遠回しに宣告を受けたモンだ……心の中で毒づいてみた。
" 俺は…… "
彼女にはそれ以上言えないまま、結局部屋を飛び出してきた。
「……俺は……」
声をしぼりだす。誰にでもなく、冷たい壁に独りきりで。
「これでも、結構本気だったんだよ」
顔をあげ二、三度頭を振り、壁から離れて歩き出した。未練がましいセリフの割には、すっきりした顔つきだった。
空は次第に青く、深く澄んでいった。
Fin.