monologue : Same Old Story.

Same Old Story

心象風景の空

上がりたての空はまだ曇っていた。十分すぎるほどに雨を降らせても、まだ何か未練があるように思えた。

(心象風景に天気を重ねる小説家がいたな)

コンクリートの冷たい壁にもたれて、青年は好きな小説家のことを思い浮かべた。彼女の部屋を飛び出すのがもう少し遅ければ、寒さに震えることはなかっただろう。

もっとも、追い出されたという方が事実には近いのだが。

(ツイてねぇなあ……)

軽く舌打ちをする。

" 優しすぎるよ "

彼女の言葉がよぎる。

" 優しすぎる "
" ……そんなこと言われたって……! "

唇を強くかんだ。

" 優しいから誰だろうと受け入れちゃう "
" そんなこと……! "
" 本当は私でなくてもいいはずだよ "
" ……そんなこと…… "

鼻をすする。寒さより他に、何かがこみあげてきた。

" 優しすぎだよ。頼られる度に受け入れても仕方ないと思う "
" ………… "

彼女には恋人がいる。自分は浮気相手ということくらい、十二分に承知していた。例え利用されるだけの関係でもいいと思ってさえいた。

" 優しすぎだよ…… "

彼女は機械音声のように繰り返した。

(そんなんじゃ……)

確かに、頼られる優越はあったかも知れない……と彼は思った。

" でも俺は "
" 私が好き? でも、それは私があなたを頼ったからかも知れないのよ "
" ………… "
" ……今度からは、受け入れるよりも、その子を導いてあげて "

今度からは。随分と遠回しに宣告を受けたモンだ……心の中で毒づいてみた。

" 俺は…… "

彼女にはそれ以上言えないまま、結局部屋を飛び出してきた。

「……俺は……」

声をしぼりだす。誰にでもなく、冷たい壁に独りきりで。

「これでも、結構本気だったんだよ」

顔をあげ二、三度頭を振り、壁から離れて歩き出した。未練がましいセリフの割には、すっきりした顔つきだった。

空は次第に青く、深く澄んでいった。

Fin.

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