Same Old Story
白雪姫へ
- To Snow White
- http://www.junkwork.net/stories/same/082
林檎が嫌いだった。
初めて白雪姫を読んだ日から、林檎が食べられなくなっていた。幼心に、魔女の恐ろしさを焼き付けてしまったのだろう。程度の軽い可愛いものではあるが、私のトラウマというヤツだ。
私の母は、林檎が好きだった。
林檎の皮むきから、芯の近くを食べるまで。とても幸せそうにする人だった。
しかし母は私を気遣い、私の前では林檎を食べなくなった。そのことに気付いたとき、私は泣きそうなくらい母に感謝した。
でも、林檎を食べる気にはなれなかった。一年前までは。
去年、母が他界した。長い間病床についていた母は最期の日、思いつめたように言った。
「あなたと私は、本当は血がつながっていないの」
天地をひっくり返すような衝撃だった。父は物心ついたときにはいなかったが、それについて不思議に思うことはなかった。でも、母の口からそんなことを聞かされるとは思わなかった。
あれから一年が経つのか。大嫌いだった林檎をかじりながら思う。私の言葉は間違ってはいなかった。あの日、母にかけた言葉は、私の恒久的な気持ちなのだ。
「母さん、それでもあなたは私の母さんだわ」
白雪姫、あなたの継母も、きっと彼女なりにあなたを愛そうとしたのよ。
今ではそう思う。大嫌いだった林檎をかじりながら。
Fin.