monologue : Same Old Story.

Same Old Story

向かいのホーム

(今日も疲れたな)

慣れない土地での独り暮らしは、精神的な負担も大きい。大学に入ってもうすぐ一か月、僕は疲れがたまってきていた。

(そろそろ慣れないとな……ん?)

電車を待つ僕の向かいのホームに、見覚えのある顔を見つけた。

(あれは……)

同じ中学に通っていた同級生の女の子だ。高校は離れてしまったが、当時は仲が良い方だった。

(あの子もこっちに下宿してたのか)

僕は声をかけようと……したが、彼女の隣に恋人らしき男がいることに気がついた。二人はあまり言葉を交わさなかったが、仲が悪いわけではなさそうだった。

(やっぱり恋人かな)

喉から出かかった言葉を引っ込めてすぐ、彼女たちのいるホームに電車がすべりこんできた。

(彼女には彼女の生活があるんだよな)

ふとそんなことが頭をよぎった。別にやましい気持ちで彼女を見たわけじゃないが、今突然彼女に声をかけることは、彼女の生活に土足で上がり込むことのような気がした。

(向かいのホームか。平行線ってやつだ)

路線はすぐ隣を走ってはいるが、交わることは決してない。もしかしたら、これから彼女に会うことはないかも知れない。

それでも、僕は少し嬉しかった。一人だけど、独りじゃない気がした。

「頑張れ。僕も頑張るから」

なんとなく小声でつぶやいてみた。やがて、電車の去ったホームには誰もいなくなった。

Fin.

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