Same Old Story
排除
- Stressful Someone
- http://www.junkwork.net/stories/same/090
「は?」
ビルの屋上、青空の下、どちらの表現にしろこの場に似つかわしくないセリフだった。
「あなたを殺すわ」
仕事仲間の彼女にここへ呼び出された。まさか愛の告白かなんて頭のゆるいことを考えた僕も僕だが、彼女のセリフはそのはるか上をいっている気がした。
「ちょっと待ってよ、いきなり何を」
「殺すの」
聞く耳を持たないとはこのことか。
「お医者さんに行ったのよ、私」
「……は?」
「自律神経失調とか何とか言われたわ。何かストレスはありませんか、って」
「……ああ、医者ね」
とりあえず返事を合わせて彼女の様子をみることにした。
「ストレスならあるわ、あなたよ」
「……僕が?」
「私の仕事のじゃまをしたり、横からかすめ取ったり」
「…………」
身に覚えはないが、今反論しても焼け石に水だろう。
「だから排除するわ」
「……ちょっと待てよ」
「ストレスの排除よ、さぞ気分がいいことなんでしょうね」
「なあ、話を」
「わかるでしょ? 嫌な上司が転勤したり、お風呂に入ってさっぱりしたらいい気分だわ」
彼女が僕に歩み寄る。
「ストレスの排除って最っっ高の気分だわ」
「……狂ってる」
君は明らかに正気じゃない、もう一度別の医者にかかるべきだ。
僕がそう言おうとした瞬間、彼女は僕に飛びかかってきた。僕を突き落とすつもりらしかった。
「ちょっ……!」
「早く死んでちょうだい! あなたがいなくなれば私は」
「冗談じゃない!」
僕は腕を振りはらい、彼女を突き飛ばした。彼女は二・三歩よろめいて柵にぶつかると、そのままバランスを崩して再びよろめいた。
やがて彼女は、柵の向こうに消えていなくなった。
「はぁっ、はぁっ……」
僕は汗をぬぐい、柵の向こうを見下ろした。辺り一面は大きな騒ぎになっていた。
「はぁ、はぁ……あの女、いいザマだ!」
その場にへたりこんでつぶやく。ストレスを排除した気分は最高だった。
Fin.