monologue : Same Old Story.

Same Old Story

嘘つきと嘘

「嘘つきは始終嘘しか言わないと仮定して考えてくれ。選択肢として二つの道があり、そのそれぞれに門番がいる。どちらも根っからの嘘つきだ」

眼鏡をかけた男が、向かいに座った若い男に話しかける。心理学だか論理学だかの研究室には、二人以外の人影はなかった。

「片方は『私の守る道が正しい道だ』と言い、もう片方は『あいつの守る道は正しくない』と言う」
「はい」
「どちらか片方の道だけが正解だとすると、この場合、どちらが本当のことを言っていると思う?」

眼鏡の男はコーヒーのカップに口を近付け、少し渋い顔をして砂糖を入れた。

「見分ける方法はありません」
「ふむ」

若い方の男が言う。

「どう仮定しようと、どちらが嘘を言っているか、あるいはどちらが正しいことを言っているか」
「そう、見分ける方法はない」

眼鏡の男がコーヒーをすする。

「どちらかが嘘つきで残りが正直者だとしても、どっちがどっちなのか見分ける方法は確立できない。これだけの条件では、ね」
「先生、僕に何が言いたかったんです?」
「私が嘘をついてるかどうか、君に見分ける方法があるのかと」
「何か嘘をついて、僕をからかおうって言うんですか」

眼鏡の男は若い男から目をそらし、もう一度コーヒーをすすった。

「いやなに、『今朝妻を殺した』と僕が言ったら、君はどんな方法で私を疑うのかなと思ってね」
「さっきと同じ条件で、ですか」
「そう、全て嘘か全て本当か、の場合」

コーヒーをすすりながら若い男を見る。若い男は笑って答えた。

「熱いコーヒーを飲ませて『冷たくないですか』って聞きますよ」
「……なるほどね。君らしいと言えば実に君らしい答えだ」

そうつぶやいて、眼鏡の男はまたコーヒーカップに口をつけた。

若い方の男が言う。

「先生、そのコーヒー渋すぎませんか」
「ああ、全く飲めたものじゃないな」

Fin.

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