Same Old Story
電波傍受指令
- The Radio Wave Tells Him
- http://www.junkwork.net/stories/same/102
「君、今すぐこの電波を傍受してくれ」
ある国家諜報機関の一室で、高官が諜報部員に指示を出した。
「070844 ……これは民間用通信機器の電波帯ですが、この数値に間違いはないんですか?」
「ああ、間違いない」
その諜報部員は今まで、民間人の通信傍受指令など受けたことがなかったので、高官に対していぶかしむような視線を投げかけた。
「指令内容は何でしょうか? 通信内容の予測データは?」
「ああ、だいたい予測はついているんだが説明している暇がない。今この瞬間も惜しいくらいなのだ」
諜報部員の疑問は解決しなかったが、高官の切羽詰まった様子を見て彼は腹をくくった。
「わかりました」
きっと緊急で重大な任務に違いない、失敗は許されない。彼はヘッドホンをかぶり、手早く機器を操作した。
『……ガ…ピー……ガ……ガ…』
「お待ちください、三十秒以内にスピーカーに回します」
「頼む、事と次第によっては私の面子はまるつぶれだ」
ああ、やっぱりこれは相当に重大な任務なのだ、と表には出さずに、諜報部員は一人確信した。自分の働き如何で上司の進退問題にまで発展するのだ、ますますミスは許されない。
『……だい…よ……』
「いけそうです」
「ああ」
二人は手に汗を握り、スピーカーから聞こえてくるノイズと声に全神経を注いだ。
『……ないわ…大丈夫だったら、あの人全然気付いて……ああ早く会いたいわ』
「…………?」
「ああやっぱりか!」
首をかしげる諜報部員の隣で、高官は膝から崩れ落ちた。
「……すみません、私には状況がよく理解できないのですが。今のは暗号か何かでしょうか? 作戦名が偽装されていたとか?」
高官は力なく答えた。
「何を言ってるんだ君は……私の妻の通話を傍受したんだよ。あの女、やはり浮気を……ああ、なんてことだ」
開いた口が塞がらない諜報部員を気にせず嘆いていた高官は、スピーカーから、ねえあなた愛してるわ、というセリフが流れるのとほぼ同時に泣き崩れた。
Fin.