monologue : Same Old Story.

Same Old Story

乗車券

ある大陸の東部と西部を鉄道が結び、やっと人の行き来が盛んになった頃の話。

東部からも西部からも遠く離れ、人目を避けるかのように暮らす一組の夫婦がいた。生活に必要な物品は、一日に三回だけ停まる列車が運ぶ。決して便利な生活ではなかったが、夫婦はその地を離れなかった。

「めずらしいな、お前が街へ行きたいなんて言うのは」

ある日の午後、夫婦は街へ出るために列車を待った。日に三回しか停まらない列車を、二人で線路沿いに座って待った。

「たまには気晴らしをしたいのよ」

妻はおしゃべりではなかったし、夫も寡黙な男だった。聞かれたこと以外には答えないような二人だった。

「そうか」
「たまにはいいわ」

二人は黙って、日に三回停まる列車を待っていた。目の前を貨物車が走り去っていく。

妻がつぶやく。

「精算の日なのよ」

夫は何も言わない。

「あなたに昔のことを聞かないのは、私の昔のことを聞いて欲しくなかったから」

夫は何も言わない。

「私、十年と少し前に男を殺したの」

列車が凄い勢いで目の前を走り去る。

「先週、指名手配が撤回されて、私は無罪になったのよ」

夫が口を開く。

「どうして今、それを俺に?」
「終わりの日と始まりの日のお祝いをしたくて。あなたが私を保安官に突き出すのなら、それを私の新しい人生の始まりにするわ」

また列車が一台走り過ぎていく。

「奇遇だな」

遠く小さくなっていく列車を見ながら、夫が遠く、小さくつぶやく。

「過ぎていく列車は人生みたいだな。停まると思えば過ぎ去る年月や機会のようで、手の中にはいつ乗れるかわからない乗車券だけ」

妻は何も言わない。

「俺も強盗をやらかしたことがある。お前よりも少しだけ早く無罪放免になったが」

妻は何も言わない。

「もう少し早く別の乗車券を手にしてれば、と思うことがあるよ」

妻は何も言わずにうつむいた。肩は小さく震えている。

「次の列車がまた通り過ぎるようだったら、俺の背中を突き飛ばしてくれ。それからお前の新しい人生を始めてくれ」

妻は黙ったまま、首を縦に振った。そして、夫と固く手をつないで言った。

「私も早く別の乗車券を手にできていれば良かった。あなたに出会っていれば、あの男を殺さずに済んだかも」

夫は目を閉じて、何も言わなかった。

やがて列車が近付いてきた。が、今度は走り去ることなく、夫婦の目の前で停まった。

「めずらしいね、二人でお出かけかい?」

車掌が尋ねた。妻が答える。

「昨日の精算と、今日のお祝いに」

やがて、二人を乗せた列車は走り出した。夫婦はつないだ手の中に乗車券を握りしめ、いつものように静かに寄り添っていた。

Fin.

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