monologue : Same Old Story.

Same Old Story

代行屋

「ああ、もうすぐ約束の時間じゃないか!」

僕は時計を見て愕然となった。針は、彼女との約束に遅刻してしまいそうな時間をさしていた。

「でも仕事はまだ……」

僕のデスクの上には、書類が高々と積み上げられている。

「仕方ない、代行屋に頼むか」

僕はそうつぶやくと、あるところへと電話をかけた。すると二分もしないうちに、一人の男が現れてこう言った。

「ご利用ありがとうございます、何でも代行、代行屋です」
「すまないけれど、僕の代わりにこの仕事を片付けてくれないか。今から用事があって」

僕が指示を出すと、彼は文句も言わず仕事に取りかかった。

彼は代行屋。顧客の身代わりをするのが商売だ。どんな身代わりだろうと、必ずこなしてくれる。

「バスじゃ間に合わないな……タクシーを使うか」

タクシー乗り場には、次のタクシーを待つ人が溢れ返っていた。

「ああ、タイミングの悪い……」

ちょうどそこへタクシーがやってきた。僕は、列の最後尾から先頭へ回り込んだ。

「ちょっとあんた、割り込みなんか……」
「文句は僕じゃなくて、彼に頼む」

僕が指差した先には、さっき呼んでおいた代行屋がいる。こういう代行もあり、ってことだ。

「良かった、たいして遅刻もしないですむ」

タクシーの中で一息ついて、道路沿いの建物に目をやる。

「あれは……!」

そこには、僕を待っているはずの彼女の姿があった。誰かと一緒に食事をしているようだった。

「どういうことだ、確かに僕と約束が……」

僕は、そこまでつぶやいてハッとなった。彼女と一緒に食事をしているやつの肩には、よく見慣れたマーク。

それは、いつも世話になっている代行屋の社章だった。

Fin.

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