monologue : Same Old Story.

Same Old Story

空白

「よし、完成だ」

目の前の薬瓶が、うす気味悪い煙をあげる。

今完成したこの薬は、僕の、長年の研究の成果なのだ。これがあれば、人間は苦しみを半分以下程度に感じることができるだろう。

「そうだ、テストをしなければ」

僕は机の上のペンを手にし、それを持った逆の手に突き刺した。

「……っ!」

痛みに絶えながら薬瓶を手にし、一口だけ口の中に含む。とその瞬間、眠るように意識が遠のいていった。

気がつけば僕は、全く別の場所にいた。手の傷をさする。

「……ない。成功だ!」

手の傷はすっかり癒えて、まるで古傷のようになっていた。

僕の作った薬の効果は、決して傷を癒すためのものではない。時間を「スキップする」という効果なのだ。こまめに記憶を無くさせて、最終的にはなかったことにさせてしまう、そんな薬だと説明すればわかるだろうか。これがあれば、僕はどんな苦しみも耐え抜くことができる。

「そう、これで、僕には怖いものは」

そう言った瞬間、僕はあることに気がついた。いや、気がついたというか認識した、だろうか。僕は、さっきとは違う場所に立っていた。

「……どこだ?」

どうやら季節も変わっているらしい。

「まあいいか」

よほど苦しいことがあって薬を飲んだのだろう。苦しみをスキップさせたことを、無理に思い出す必要もない。

「さて、これからどうしようか。まずは……」

僕は、また景色が変わっていることに気がついた。また薬を飲んだのだろうか。

「こうも頻繁だとまいるな。少し効果を控え目にしようか」

しかし、気付いたときにはもう既に手遅れのようだった。瞬きをするたびに景色が変わる。季節が変わる。時間が過ぎている。

「もしや……」

そう思ったときには完全に後の祭りだった。僕はとんでもない速さで年老いていき、遂には病の床についていた。

「いつのまにこんな」

次に気がつけば、僕は木の箱の中にいた。どうやら死んだと思われて、棺桶の中にでも入れられているらしい。僕がこうして意識を取り戻したということは、仮死から蘇りでもしたらしいが、そのことには誰も気付かず、焼却炉へと近付いていっているようだった。

「僕は、まだ、生きて……!」

そう叫んだ瞬間、体の周りの温度が急激に上がった。炉の中に入れられてしまったようだ。苦しい、熱い、こんな目にあうのはごめんだ……そう思った瞬間、僕の意識は眠るように遠のいていった。

そしてそのまま、次の風景を見ることはなかった。

Fin.

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