monologue : Same Old Story.

Same Old Story

地下鉄帰り道

地下鉄のリズムに合わせて、疲れた体が周期的に揺れる。仕事帰り、この時間に席が空いていたのは幸運だった。

(随分混んできたな)

郊外から都心部へ、そこからまた郊外へ。この電車の混雑度は、綺麗な放物線を描く。

僕は、さっきから目の前にいる女性が気になっていた。僕と同じ仕事帰りなのだろう。顔には疲れが出ているようだ。彼女は電車に乗り込んだときから、ずっと僕の前に立っている。車内の客が入れ替わるような駅でも、要領が悪いのか、彼女が周囲を見渡す頃には空席は埋まっていた。

(もう五駅くらい空席を見逃してるな)

僕が下りるのを待っているのだろうか。「僕は終点前まで降りませんよ」と告げるべきだろうか。そのとき、電車はまた大きな駅に着いた。

「あの」

彼女が僕の目を見る。僕は、声を出した自分自身に少しだけ驚いていた。

「僕、もうしばらく……三駅は降りませんよ」

彼女は言葉の意味を計りかねていたようだが、僕が付け足して何か言おうとしたとき、ようやく意味がわかったようだった。そして、少しだけ微笑んで言った。

「いいんです、そんなつもりじゃないですから」

僕は、少しだけ恥ずかしくてうつむいた。余計なお世話だったか。

電車がまたリズムに乗り始めたころ、彼女が僕に話しかけた。

「いつもこの電車に乗ってるんですか?」
「ええと、まあ大抵」

僕は少し驚いて、曖昧な返事をした。

「前に一度、すぐ近くに乗り合わせてたことがあるんです」
「僕の?」
「今日みたいな日で、疲れてる様子でした。でも、目の前に立たれたお婆さんに席を譲られて」

はて、そんなこともあっただろうか。

「優しい方なんですね、さっきも私に」

自分が赤面しているのがよくわかった。

電車が駅に着く。隣のサラリーマンが席を立つ。

「隣、いいですか?」

僕は、きっと赤面したまま、小さく「どうぞ」と答えた。

Fin.

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