monologue : Same Old Story.

Same Old Story

夢喰い

"夢屋" というおかしな商売がある。名前だけでは何が何だかわからないが、簡単に言えば、嫌な夢を記憶の操作で消してしまうというものだ。日々の仕事に夢を持てないサラリーマンなんかにウケて、そういう僕もよくお世話になっている。

「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか」
「今朝見た夢を消してくれ。殺人鬼に追われる夢なんて忘れたい」
「承知しました」

夢の消去は十五分ほどで終わり、一律の料金を支払って終了。僕はよく仕事後に行くが、仕事前にすっきりさせる人も多い。

「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか」

僕はいつのまにか常連になり、たくさんの悪夢を消した。現実でないところでくらい、いい気分でいたいからだ。同期が自分よりも早く出世する夢、事故にあう夢、彼女が出ていく夢、泥棒にあう夢……どれもこれも、折り紙つきの嫌な夢だ。

ところがある日、夢屋は妙なことを言った。

「お客様、今申された記憶は、夢ではない可能性があります」
「何言ってんだ? 夢に決まってるだろう、僕がそう言うんだから」

夢屋がそう言うのは一度きりではなかった。そのたびに説き伏せて消させるのだが、おかしなことを言うものだ、と不思議に思った。

ある日、僕はまた奇妙な夢を見た。現実だと思っていたのだが、どうやら夢のようだ。というのも、会社に行ったつもりだったのだが、どう考えても現実ではない要素でいっぱいだったからだ。

「あれ、お前、なんで課長のイスに?」

僕の同期のやつが、課長のイスに座ってふんぞり返っている。

「お前こそ、どうして会社に来てるんだ? 昨日づけで解雇されただろう」
「……何を言ってるんだよ、いったい」

話を聞くと、まるで今まで消してきた僕の夢が、全て現実のことだったかのように思えた。今まで見た悪夢が、総出で襲いかかってきたような感覚だった。

「……まいったな」

こんな夢、また夢屋に行って消してもらわないと。

Fin.

Information

Copyright © 2001-2014 Isomura, All rights reserved.