Same Old Story
自己中心
- Two of Us
- http://www.junkwork.net/stories/same/112
『税率引き上げ反対』
大きなプラカードを持った威勢のいい集団が、駅前の大通りを我が物顔で占拠している。
「大差ないな」
私の隣でそれを見ていた彼が、吐き捨てるようにつぶやいた。
「大差って? 何が?」
「デモ行進。あれって一種のテロだろ?」
何気ない表情で、危なっかしいことをさらりと言う。聞く側の私がひやひやするくらいだった。
「いきなり何怖いこと言いだすのよ、テロとは全然違うじゃない」
「そうかな」
目を細めて顔をしかめる彼。
「自分の思いどおりにならなくて悔しいけど、張本人に直接言うことはできないから、どこか別のところで力ずくの行為に出るわけだろ」
「まあ……うーん」
彼の言うことは、いつもいつも微妙なセンをついてくる。
「自分は間違ってないと思い込んでるあたりもそっくりだろ」
「でも、誰も傷つかないでしょ?」
彼は黙って何か考えているようだったが、しばらくすると通りの車を指差して言った。
「例えばあの車が、病院に輸血を運ぶ車だったら? 社運を賭けた大事な会議に向かう重役の車だったら? 誰も傷つかないですむと思うかい?」
「でも、そんなときは状況を説明すればきっと」
「彼らは道をあけはしないよ。トラブルは政府の責任にするから、巻き込む相手は多い方がいいのさ」
ふふっと笑って、彼は続けて言う。
「他にいくらでも方法があるのに、自分たちは一点の曇りもない正義だと信じ込んでるから、盲目的にこんなバカなことするんだろうな」
「……じゃあ聞くけど」
そのとき、デモ行進をしていた団体の中から、断末魔のような壮絶な悲鳴が聞こえた。声のする方を見ると、爆発音に続けて数度火柱があがった。爆弾テロだ。
「じゃあ聞くけど……あなたはどうして、テロリストなんかやってるの?」
彼は一瞬呆気にとられた顔をしたが、すぐ元の顔に戻って言った。
「決まってるさ、他に方法を知らないバカだからだよ」
Fin.