monologue : Same Old Story.

Same Old Story

不幸自慢

ある病院の屋上で、車椅子に座った中年男性三人が、お互いに自分の身の上を語り合っていた。フェンスの前に一列に並び、そろって町を見下ろしながら。

「いや私なんかは仕事の虫だったもので、それが原因でか、自律神経をやられたようで」
「それはまたお気の毒に。今回はどんな症状で入院を?」

右端の男に、真ん中の男が相槌をうつ。

「もう、神経系統のほとんどにガタがきているようでして。まっすぐ歩けないわ、手足は震えるわ、不必要に汗はかくわで」
「それはそれは、さぞお辛いでしょう。お察しします」
「それで、あなたはどのような症状で?」

今度は、右端の男が問いかける。

「いや、私なんぞは……。若い頃の不摂生がたたって、肝臓をやられましてね」
「それはそれは」
「来年は息子が大学受験だというのに、私がこんなでは家族を養っていけるかどうかも不安でして」
「ですが、いざとなったら息子さんが仕事につけばいい。稼ぎ頭もいなく、子供が遠く離れて自立した私に比べれば」
「何をおっしゃる、仕事の虫だったならずいぶん蓄えもあるでしょう。その点うちなんかは、この不景気にそんな余裕もなく」

お互いに話はどんどんエスカレートし、自分がいかに不幸であるか、それを語ることが目的となっていったようだった。しばらくして二人が一息ついた頃、ずっと黙っていた左端の男が口を開いた。

「お二人ともだいぶ不幸を背負われているようですが、私に比べればまだまだ余裕がおありになるようです」
「と、言いますと?」

真ん中の男が、何やら不機嫌そうな顔で聞き返す。

「私なんて不幸にも入院した上に、こうして毎日、聞きたくもない不幸自慢争いを聞かされているのですから」

真ん中の男と右端の男は顔を見合わせ、やがてどちらからともなくつぶやいた。

「ご愁傷様です」
「おだいじに」

Fin.

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