monologue : Same Old Story.

Same Old Story

完全な植物

「そう、これは威信と社運をかけたプロジェクトなのだ」

社長室とネームプレートが掲げられた部屋で、スーツの男が白衣の男に力説していた。スーツの男はもちろんこの部屋の主である社長で、白衣の男は商品開発部門の中心人物だった。

「コンセプトは "完全な植物" だ。農業の歴史を塗り変えるほどの改革を起こし」
「ああ、わかりました社長。それならちょうど開発中の力作があります」

白衣の男は社長を制止すると、部屋の外からショッピングカートのようなワゴンを運び込ませた。ワゴンの上には、ダチョウのものよりはるかに大きい卵がひとつ。

「なんだねこれは?」

当然、社長は困惑の表情を浮かべた。卵は植物などではないからだ。しかし、白衣の男は満面の笑みで、社長にナイフを手渡した。どうやら卵を割れ、ということらしかった。

「まあやってみるさ」

社長は卵を真ん中でふたつに割ると、中から現れたものに驚きのあまり言葉を失った。

「これは……スイカ?」
「そうです社長。これが新製品です」
「説明したまえ」

社長がそういうと、白衣の男はファイルを取り出してそれをめくりはじめた。

「まず、中身はまぎれもなくスイカです。食べていただくことも当然可能です、害はありません」
「これは卵なのか?」

中身をつまみながら社長が言う。

「うん、うまい」
「遺伝子操作でカラをつけたのです。カラの中身をメロンの実にすることも可能ですよ」
「カラをつけるメリットは?」
「まず、害虫や害獣による被害はほぼなくなるでしょう」
「ふむ」
「必要以上に水分が蒸発していくのをふせぐ効果もあります。ある砂漠植物の遺伝子も組み込んであるので、水の極端に少ない地域でもすくすくと育つでしょう」
「素晴らしい」

中身をむしゃむしゃと食べながら、社長は歓喜の声をあげた。

「『完璧な植物』として市場を席巻すること間違いなしだ」
「ありがとうございます社長」
「君は歴史に名を残すかもしれんぞ」

社長は、中身をほとんどたいらげて、うむうまい、とつぶやきながら椅子に座った。

「社長、実はまだ秘密があります」
「何?」

社長が身を乗り出す。

「実はまだ組み込んだ遺伝子があるのです。今挙げたのはこの植物の性能のごくごく一部でして」
「君はたいした男だ。どれ、聞かせてくれ」

白衣の男はぱらぱらとファイルをめくった。

「まず強力な生命力を持つゴキブリの遺伝子、無類の繁殖力を持つドブネズミの遺伝子……」

Fin.

Information

Copyright © 2001-2014 Isomura, All rights reserved.