monologue : Same Old Story.

Same Old Story

ねじれた世界

「どうして眼鏡かけないの? 視力、かなり落ちてるんでしょ?」
「うん、なんだか眼鏡をかけると、いろんなものがねじれて見えてるんじゃないか、って、なんとなくそんな気がして」
「せっかく私がプレゼントしたのがあるんだから。きっとあなたが思うより、ずっと似合ってるわよ」

そうかなあ、と弱くつぶやいて、僕は苦笑いをした。彼女は微笑んでいる、と思う。

確かに視力低下と乱視が邪魔をして、向かいの席に座る彼女の表情もはっきりとはわからない。喫茶店の机なんて幅一メートル程度だろうに、そこにある顔もよく見えないのだ。

「確かに、視力はまだ落ちてるしなあ」
「視力低下を防ぐことができるわけじゃないけど、私の顔もよく見えないんでしょう? だったら眼鏡をかけてほしいわ」
「そうかあ……」

歯切れ悪くつぶやくように言い、鞄の中から眼鏡を取り出す。彼女がプレゼントしてくれた眼鏡だ。

「ほら、よく似合ってるわ」

眼鏡をかけると、彼女の顔がはっきりと見てとれるようになった。可愛らしく微笑んで、少し嬉しそうな様子だ。

「そうかなあ……」

また歯切れ悪くつぶやくように言って、眼鏡をはずす。彼女の顔がぼやける。

「ね、見えないでしょ? 私の顔」

見えるか見えないか、僕にはそれより気がかりなことがあった。

携帯電話を取り出して、彼女の写った画像を呼び出す。顔に近付け、それをじっと見る。

「どうかしたの?」

眼鏡をかけて、彼女を見る。

「?」

やっぱり、気になる。今見た、携帯電話に入っている画像の彼女より、目の前の彼女の方がずっと美人に見える気がする。しかも、写真うつりとかカメラの性能とか、そういうレベルの違いではないように思える。僕にはどうにも違う顔に見えるのだ。

「何? 何なの?」
「いや、何でもない」

画像より美人の彼女が不思議そうな表情で僕を見る。彼女がくれたこの眼鏡に何か仕掛けが、と考えたりもしたけれど、そうすることのメリットがよくわからない。それにいくらコンピュータが小型化しても、そんなことが可能かどうか。

「本当に何も?」
「うん」

実物よりも美人に見せかけるつもりで? まさか、そんな。

「何でもないよ」

まさかそんな話、聞いたこともない。

「そう、ならいいんだけど」

そう言って微笑む彼女は、やっぱり以前より美人に見えた。

Fin.

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