monologue : Same Old Story.

Same Old Story

待合室

ホームへの階段を上りきって、夜は冷えるようになったなあ、と小さくつぶやく。冷たい空気が、酒で火照った顔を少し冷やした。

「次の電車は……もう最終になるのか」

時刻表にはそう書かれている。

「ちょっと飲みすぎたかな」

ぼそぼそとつぶやきながら、誰もいないホームに設けられた待合室へと足を運ぶ。中には一人の若い女性がいて、ドアを開けた僕に会釈をした。僕も慌てて会釈を返す。

「こんな遅い時間に、お一人で……お互い様ですね」
「ええ」

何とはなしに話しかけてみると、彼女もそれを待っていたのか、嫌な顔ひとつせずに受け答えをしてくれた。あるいはこんな時間にホームの待合室に一人で、彼女も心細かったのかも知れない。

「人がいれば気も紛れるでしょうが、時間も時間ですし」
「今日はもう誰も来ないものだと思ってました。そこへあなたが」
「顔見知りでなくても、誰かがいるだけで気が楽ですよね」

僕はいつもは人見知りする方なのだが、酔った勢いでもあったのか、割と饒舌でいるようだった。

「それにしてもこの時間帯、待つ身にしてみれば一分一分が長いですよね」
「ええ」
「時間の流れがまるで十倍にでもなったような、こう、ゆっくりゆっくりと」
「ええ。一日千秋の想い、かしら」
「ははは、僕らはそんなには待ちませんけどね。あと二分もすれば電車が着くはずです」

そこで彼女が黙り込んで、僕は笑ったことが不快な気分にさせたのだろうか、とにかく謝ってしまおうか、と考えた。けれどそれも不自然な気がして、僕もそのまま黙り込んだ。途端に時間がゆっくりと流れ始める。

(あと二分、か)

時計を何度も見ることが彼女に失礼な気がして、はっきりと時間を確認することができなかった。あと一分くらいだろうか、それともまだまだだろうか。

彼女は何も言わず、待合室の外を眺めているようだった。

(もうそろそろかな)

何度かそう思ったが、まだ電車は来ない。本当に時間の流れがおかしくなってしまったのだろうか。

(何だか気まずいな。これなら一人の方が気楽で良かった)

そう思い始めた頃、線路を鳴らしながら、電車が近付いてきた。内心安堵しながら、僕は席を立つ。

「……? 乗らないんですか?」

彼女は座ったまま、じっと待合室の外を眺めたままでいた。

「あの、これ、最終になると思いますけど」

僕の呼びかけに彼女は小さく、だって、とつぶやいた。

「だって、私が待ってるのは電車じゃないもの」

そう言ったと思うと、彼女の姿はふっと消えてしまった。自分で自分の頬を叩いてつぶやく。

「飲みすぎだろ」

おぼつかない足取りで電車に乗り込む。

" ご利用ありがとうございます、本日最終列車桶川行き、各駅に停車してまいります…… "

ひんやりとした電車の窓に頬を押し付ける。彼女は、何を待っていたのだろうか。

Fin.

Information

Copyright © 2001-2014 Isomura, All rights reserved.