monologue : Same Old Story.

Same Old Story

覚める夢

物語のような導入部は、いつもぼんやりとして定まらない。過去と現在がぷっつりと途切れているような、どうしようもない曖昧さにぼんやりと包まれている。

「……ああ、朝だ」

また朝が来た、と僕は思った。毎日毎日課長にどやされて、契約先の係長には皮肉を言われて、恋人はもしかしたら浮気をしているかも知れない。絵に描いたような、冴えない毎日。

「また、朝だ。夜の次にくるのは、朝だ」

眠ればもう翌日。一応の達成感に包まれた昨夜はすっかり消えてなくなり、ノルマが山のように積み重なった今日が始まる。今日も課長にどやされ、契約先の係長に皮肉を言われ、恋人の浮気の素振りに一喜一憂する。冴えない毎日だ。

「目が覚めたら別の人生、なんてことはないもんかな」

そう都合よくいかないことくらいはわかっているつもりだ。今日も期待値通りの日課を過ごして、一応の達成感を報酬として一日を終えるのだ。そして目が覚めれば、また明日。予定通りの明日。予定通りの明後日。

「もううんざりだ」

一日の節目ごとに、心の中でつぶやく。仕事と人間関係に疲れて自宅に帰り着く僕は、今日一日が朝方の予想通りだったことを思い知る。倒れ込むようにベッドへたどり着き、小さな達成感とともに今日を終える。

「ん、朝か」

そして、いつものベッドで目を覚ます。

「……? 何かあったのか?」

いやに騒がしい。外で、人が走り回っているような気配。

「おい、逃げるんだ! 隣国からの砲撃だ!」
「……砲撃?」
「何を寝ぼけてるんだ、とにかく逃げるんだ!」

男が突然僕の部屋に入り込んできたかと思うと、手をぐいぐいとひっぱって強引に外へ連れ出した。そこで僕が目にしたのは、轟音を立てながら飛ぶ戦闘機と、遠目にゆっくりと進行してくる戦車部隊だった。

「……なんだこりゃ! どうなってる?」
「どうなってるもあるか、今日で三日連続だろう!」
「三日? そんな! だって僕はここ数日、ちゃんと規則的に……」
「……なんだ?」

規則的に、僕は何を?

「いや、なんでもない」

硝煙の臭いと照り付ける日差しが、今僕が立っている現実について、何も語らずに諭しているような気がした。

「間違いない、これが現実だ」
「どうかしたのか? 大丈夫か?」
「ちょっと幸せな夢を見てたんだ」

わけがわからない顔をしている男を、今度は僕がひっぱって歩く。

「さあ、早く避難するとしよう!」

Fin.

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