Same Old Story
覚める夢
- Ordinary Morning
- http://www.junkwork.net/stories/same/139
物語のような導入部は、いつもぼんやりとして定まらない。過去と現在がぷっつりと途切れているような、どうしようもない曖昧さにぼんやりと包まれている。
「……ああ、朝だ」
また朝が来た、と僕は思った。毎日毎日課長にどやされて、契約先の係長には皮肉を言われて、恋人はもしかしたら浮気をしているかも知れない。絵に描いたような、冴えない毎日。
「また、朝だ。夜の次にくるのは、朝だ」
眠ればもう翌日。一応の達成感に包まれた昨夜はすっかり消えてなくなり、ノルマが山のように積み重なった今日が始まる。今日も課長にどやされ、契約先の係長に皮肉を言われ、恋人の浮気の素振りに一喜一憂する。冴えない毎日だ。
「目が覚めたら別の人生、なんてことはないもんかな」
そう都合よくいかないことくらいはわかっているつもりだ。今日も期待値通りの日課を過ごして、一応の達成感を報酬として一日を終えるのだ。そして目が覚めれば、また明日。予定通りの明日。予定通りの明後日。
「もううんざりだ」
一日の節目ごとに、心の中でつぶやく。仕事と人間関係に疲れて自宅に帰り着く僕は、今日一日が朝方の予想通りだったことを思い知る。倒れ込むようにベッドへたどり着き、小さな達成感とともに今日を終える。
「ん、朝か」
そして、いつものベッドで目を覚ます。
「……? 何かあったのか?」
いやに騒がしい。外で、人が走り回っているような気配。
「おい、逃げるんだ! 隣国からの砲撃だ!」
「……砲撃?」
「何を寝ぼけてるんだ、とにかく逃げるんだ!」
男が突然僕の部屋に入り込んできたかと思うと、手をぐいぐいとひっぱって強引に外へ連れ出した。そこで僕が目にしたのは、轟音を立てながら飛ぶ戦闘機と、遠目にゆっくりと進行してくる戦車部隊だった。
「……なんだこりゃ! どうなってる?」
「どうなってるもあるか、今日で三日連続だろう!」
「三日? そんな! だって僕はここ数日、ちゃんと規則的に……」
「……なんだ?」
規則的に、僕は何を?
「いや、なんでもない」
硝煙の臭いと照り付ける日差しが、今僕が立っている現実について、何も語らずに諭しているような気がした。
「間違いない、これが現実だ」
「どうかしたのか? 大丈夫か?」
「ちょっと幸せな夢を見てたんだ」
わけがわからない顔をしている男を、今度は僕がひっぱって歩く。
「さあ、早く避難するとしよう!」
Fin.